セーフティー・はーと

セーフティー・はーと

第61号 カンボジアの地雷処理

小川 輝繁 <横浜国立大学 大学院>
昨年12月にカンボジアの地雷処理を視察した。カンボジアの地雷処理の組織はカンボジア地雷対策センター(CMAC)である。
カンボジアでは内戦時代に敷設された膨大な数の地雷が埋められており、現在のペースでは全て除去するのに100年以上かかるといわれている。また、ベトナム戦争での米軍の空爆の不発弾が大量に埋まっている。地雷により子供を含む一般人が手足を失う悲惨さが報道されている。カンボジア全土での地雷による事故の死傷者数は1998年には1640人であったが、CMACの調査、広報等の活動の成果で年々地雷事故の死傷者数は減少し、2002年は366名である。一方、不発弾の事故による死傷者はほとんど横這いで、2001年以降は不発弾事故による死傷者数が地雷事故によるものより多い。
 地雷や不発弾の処理活動に対して国際的な援助が求められている。日本からは資金援助の他、NPO法人に本地雷処理を支援する会(JMAS)がカンボジアに専門家を派遣してCMACと連携して主に不発弾の処理活動を行っている。プノンペンンでCMASの本部、JMASのカンボジア事務所を訪問し、JMASがプレイヴェーン州で行っている不発弾処理活動状況やポーサット州のCMASの地雷処理活動等を視察したが、JMASの高山良二現地副代表に全工程案内して頂いた。山田良隆現地代表、高山副代表をはじめ日本人専門家は自衛隊のOBで危険な仕事にもかかわらずボランティアとして活動している。高山副代表は自衛隊のPKO隊員としてカンボジアのタケオで活躍されたが、その時地雷・不発弾事故撲滅の重要性を痛感され、自衛官退官後直ちにカンボジアにおける地雷・不発弾処理の活動に参加された。同氏が「できるだけの多くの人が無理をしないでできる範囲内で地雷処理に貢献して頂くことを望んでいる。」といわれたことが印象に残っている。この言葉は安全活動にも当てはまると思われる。安全活動も関係者が自分のできる範囲で安全化に取り組むという意識を常に持っていることが必要ではないでしょうか。

第60号

フェロー 飯塚義明   <㈱三菱化学科学技術研究センター>
私事で恐縮ですが,昨年3月に環境安全工学研究所の所長職を退任し、6月には、定年退職を迎えました。引き続き、研究組織が独立した研究センターに勤務をしています。
三菱化成工業㈱の時代からほぼ30年間安全に関する研究やおよび製造現場への安全支援を行って着ました。年間生産量が何十万トンというプラントと50kgが商業レベルというプラントまで幅広く体験できたことは、安全をライフワークとするに貴重な経験でした。ここ数年は、製品安全という分野に手を染め、現在も小さいながら特定分野の安全性評価を研究するプロジェクトを運営しております。「製品安全」と「製造安全」と異なる点は、安全意識そのものにあるようです。例えば、一般大衆に近い製品で、使用者に被害を加えるイベントの発生は、その製品の存在(売れ行きの低下)が脅かされる。そのため、あらゆる最悪ケースを想定した評価を必要とされる。一方、製造は必要悪と言うと言い過ぎなるかも知れませんが、致命的な事故が発生しない限り、根本的な改善を施さないままずるずると生産活動を続ける。生産の周囲もそれを認める風潮があり、日本代表をするような企業が、その典型例をおこしている。「製品安全」という世界からもの作りの世界を見たとき、そのギャップは、なんとも表現しがたい。生産技術に国家間の差が無くっている昨今、日本のもの作りは、製品安全レベルの安全意識で取り組んでいって欲しいものです。

第59号 今こそ自主管理の徹底を

西 茂太郎
2004年の新年が明けました。今年こそ良い年にしたいと誰もが思っておられることと思います。それにしても昨年は安全に携わる者にとっては色々と苦難の一年であったと思います。
何故事故が立て続けに起こるのか?共通した原因があるのではないかと。事故を起こした側の社会的責任は当然であり、厳しく問われてしかるべきと思いますが、長期的な視野に立った場合、今こそ自主管理を徹底すべきだと思います。
 安全確保のために日本では、「Zero Event Tolerance(事故はゼロでなければならない)」、欧米では「ALARP(as low as reasonably practicable:合理的に実行できる中で可能な限り少なくする)」というコンセプトです。
「Zero Event Tolerance」コンセプトの強制の弊害は、規制と基準のありように表れています。日本と欧米の法律の明らかな違いの一つはその規定の仕方で、欧米の規制は「ゴール志向」であり、日本ではほとんどがゴール志向ではなく、微に入り細に入り規定しています。このことは行政機関にとっては法律遵守状況のチェックに容易である反面、産業界を知らず知らずのうちに、法的責任ばかり負わせられる自由度のないリスク管理に追いこんでしまっています。企業が独自にリスク管理することを結果として行政が邪魔しています。しかし結局、日本の企業は行政が敷いた事故防止の路線を歩むしかない状況に陥っているのが実態ではないでしょうか。
 これから脱却するための取り組みがいくつかなされつつありますが、事故が発生したら新たな規制強化という今までのパターンから脱却し、中途半端な自主管理から徹底した自主管理へ移行しなければ真の安全確保は達成できないと考えます。

第58号 生き物に学ぶ

佐藤研二 <東邦大学>
先ほど金沢工業大学において開かれた安全工学発表会では,安全の意味について考えさせられる2件の特別講演があった。
向殿政男氏は「情報安全」の題のもと様々な切り口から安全を考える安全マップの内容を含めた話をされ,長尾隆司氏は「身の丈に合った生活 ―コオロギから見た人間社会―」と題した話をされた。筆者は所用のため長尾氏の講演は聞くことができなかったが予稿集の文章を興味深く読ませていただいた。ある種の人工的な生育環境に置かれたコオロギは本来の適応能力が大きくゆがめられてしまうという内容が述べられていた。
 これらの話題から取り留めのないことを考えてみた。
 様々な環境の中で弱点を持ちながらも命をつないできた生き物(生命体)は,細胞レベルで,個々の個体で,または,仲間,種などのまとまりとして,危険を回避しあるいは受けたダメージから回復して生き延びようとする性質とそのための能力や習性を属性として持っている。この能力と習性は,大きく見ると多くの生き物に共通する部分と個々の生き物の種類の体の構造や行動様式の違いに適するように特化した部分とから成り立っていて,これに個体差が加わる。
 飛行機の例をみるまでもなく生き物を手本にあるいはヒントに発達してきた科学技術は多い。安全工学関係でも,生活,産業,環境等での安全に関連した技術やシステムの課題について解決方法を考えるときに生き物がヒントになってきた部分が多々あると思うが,その関連性が強く意識されたものは意外と少ないようにも思える。今後,生き物が長い進化の過程で獲得してきた多様な能力や習性についてより深く知りさらに人間と他の生き物の間での,あるいは他の生き物間でのそれらの比較も進めることで安全工学に関係する新たな展開が生まれてくる可能性も考えられる。これまでに知られているこのような能力や習性を安全工学的な観点をふまえてまとめたデータベースのようなものがあってもよいのではないだろうか。

第57号 CSRに思う

天野 由夫 <出光興産 安全環境室>
最近、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉を耳にする機会が多くなって来ている。CSRは簡単に言うと企業の社会的責任であり、企業が社会の一員として持続的に事業を展開するため果たすべき責任のことである。
CSRが求めているのは、単に、法律を守っているだけでなく、最近はこれも守らず問題になっているケースもあるが、企業の倫理規範の遵守、公正な企業活動、社会貢献等がある。欧米では、この動きが顕著となってきている。日本も近い将来、消費者や投資家はこのようなCSRを尺度として企業を峻別する時代が来ると考えられる。その中でも、CSRではステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たすこと要求している。CSRの中には当然、環境や安全の分野も含まれている。安全の場合で言えば、企業の安全確保に対する努力や姿勢を利害関係者に普段から説明することが必要である。不幸にも事故が発生した場合も同様、ステークホルダーは誰で、どのような内容、手段等によって、説明責任を果たすのか、考えなければならない。過去、往々にして、安全の説明では、安全上の問題点を明示することなく、しっかりやっているとか、安全に対しては最大限の努力を傾けているという姿勢論の説明が多くなされてきた。CSR等を考えると、安全の説明責任を果たすためには、今後、あまり積極的に公表してこなかった安全上の問題を明確に示し、そのため、このような安全確保の努力を行っているという説明が必要となって来るのではないかと思う。ステークホルダーを明確にし、納得させるような説明を普段から準備することが今後、大切になってくると思う。

以 上

第56号 廃棄物処理施設における火災・爆発事故

安田憲二
最近、廃棄物処理施設における火災・爆発事故が多発している。例として、第51号で取り上げた8月19日の「三重ごみ固形燃料発電所」における爆発事故のほかに、11月5日の早朝に神奈川県大和市で発生した「生ごみ処理機」の爆発事故などがある。
これらは、いずれも貯留、処理の過程で発生した可燃性ガスが直接の原因であると考えられているが、詳細は不明である。
 廃棄物処理施設での爆発事故としては、昭和52年ごろから焼却施設の灰バンカー内における爆発事故が数多く報告されている。この原因は灰と冷却水が反応して可燃ガスが発生したためであるが、これらの事故は思いがけない場所で起こることが多く、しかも可燃ガスが発生することに関して認識があまりないことから、原因不明として扱われることが多い。このため過去の経験が生かされず、現在もこの種の事故が繰り返されている。
 現在、労働災害の発生は毎年減少しているが、廃棄物処理業では発生率がきわめて高いうえに減少していないなど、ほかの産業と比べて特異な状況にある。これまで、廃棄物処理に関しては処理技術の開発が主であり、安全性に対してあまり注意が払われてこなかった。可燃性ガスによる火災・爆発事故は死亡事故を招くことが多いことから、今こそ専門家の英知を集め、事故の撲滅に向け奮起すべき時ではないか。

第55号

西 晴樹  <独立行政法人 消防研究所>
平成15年9月26日に発生した十勝沖地震では、行方不明者2名、負傷者844名などの人的被害、1676棟の住家被害、火災4件などの被害が発生した(平成15年10月23日20:00現在)。
この火災4件のうち2件は、屋外タンク貯蔵所の火災であり、かつ、同一の事業所で発生したものであった。日本において、地震で屋外タンク貯蔵所が火災となった事例としては、昭和39年の新潟地震での事例や昭和58年の日本海中部地震での事例があるが、最近はほとんどその例を聞いたことがなかった。
 火災原因の究明は、消防機関のこれからの調査を待たねばならぬが、当該火災が与えた社会的影響を考慮すると、火災原因調査は早急に、かつ、徹底的に行われなければならないであろう。
 今年は、日本を代表する企業の事故や火災が続発しており、こうした事態を踏まえて、総務省消防庁では、関係企業から関連事項についてヒアリングを実施したり、関係各省と相談しながら、「産業事故災害防止対策推進関係省庁連絡会議」を発足させ、産業事故災害の防止について、情報交換および安全対策の検討を行っている。
 こうした活動展開していくことにより、このような災害の再発を防止し、みんなが安心できるような防災体制が確立されることを願う次第である。

第54号 国立大学法人化

土橋 律
国立大学は、平成16年4月から法人化することが決まっている。法人化により組織運営など様々な点が変化するが、安全衛生管理においては、適用法規が人事院規則から労働安全衛生法(安衛法)に変更となる。
これに伴い、衛生委員会設置、衛生管理者選任(資格取得が必要)、局所排気装置設置(有機溶剤や特化物使用時)などが必須となり、準備に追われている。さらに、現在は罰則の規定が無く責任体制が不明確なのに対し、安衛法では罰則が明確に規定され、労働基準監督署の監督のもと厳格に適用されることなるため、責任体制確立や責任者の意識改革が課題となっている。実際、現状では、国立大学の実験室と、安衛法が当初から適用されている企業の研究所の実験室を比較すると、安全衛生管理や安全設備において国立大学の実験室は明らかに劣っていると言わざるを得ない。このような差異が生じてしまったのには、法規の違いのみならず、企業と大学の組織や管理の違い、面積や予算の問題など様々な背景があると思われる。しかし、大学は教育機関であり人材育成の場であることを考えると、大学の実験室では模範的な安全衛生管理のもとで教育、研究をおこなわなければならないことは自明である。危険作業時の安全衛生管理について、大学を卒業した学生が企業に入って始めて知るという今の状況は異常と言わざるを得ない。
 したがって、国立大学は、この機会を良いチャンスととらえ、安全衛生管理の大幅なレベルアップ実現することが肝心であると思う。安全衛生管理には、労力や費用が必要であるが、確実な管理を実施し安全な教育研究環境を提供できるか否かが、今後各大学の評価に大きく影響してくることは間違いないと思われる。

第53号 2003年7~9月の火災爆発事故

田中 亨
産業施設での火災爆発事故が多発しています。セメント工場石炭サイロの爆発(7月22日)、ごみ固形燃料(RFD)発電所でのRDF貯蔵タンク火災(8月14日)と同じタンクの爆発火災事故(8月19日)、
油槽所でのタンク改修工事中のガソリンタンク火災(8月29日)、製鐵所のコークス炉ガス用ガスホルダーの爆発炎上と隣接高炉ガス用タンクの誘爆事故(9月3日)、タイヤ工場の大規模火災(9月8日)等です。2ヶ月弱の間に、これほどの数の事故が続くと、何か共通する問題が隠れているように思われます。事故が発生した企業の業種は異なっており、共通する問題があるならば、業種に限られることなく、次の事故発生が懸念されます。事故調査がなされ、いずれそれぞれの事故原因は明らかにされるでしょうが、その結果が明らかになるまでは、過去の経験や業界の常識の枠を超した観点からの事故予防に注力する必要があります。

第52号

高野研一
今朝、全国の国立大学の病院での事故防止の取組みに変化が起きているとの報道がNHKで紹介されていた。
病院での事故(顕在事象)、ささいなミス(ニアミス)、ヒアリハット(潜在事象)の分析を専門家が徹底しておこなったところ、個人の不注意というよりもむしろ組織や医療システムに係わるいわゆる「組織要因」がこれらのインシデントを引き起こしている実態がしだいに明らかにされ、担当の安全推進室の医師は衝撃を受けたという内容である。これに対するアンチテーゼとして、事故は個人がしっかり注意すれば防げるという古典的な意見がいまでも根強いが、不注意によるミスは後を絶たない。これを防止するには、精神訓ではなく、地に足が着いた組織としての対応である。そのような取組みには、「人・物・金」がかかるために二の足を踏むケースが多いが、ミスを起こしにくい、機器構造、確認システム、コミュニケーションシステムが求められる。さらに、院内従事者の負担軽減、チーム医療による相互チェックなど包括的な取組みが不可欠である。

第51号 消防士の安全は?

大谷英雄  <横浜国立大学大学院工学研究院>
8月19日に発生した「三重ごみ固形燃料発電所」のRDF貯槽の爆発事故により消防士2名が死亡した。このような消火作業中の消防士の死亡事故が国内では東京や神戸,さらに大きなものとしてはニューヨークのワールドトレードセンタービルで起こったのもまだ記憶に新しいところである。
消火活動というのは常に危険にさらされているが,これらは従来の知見では対応できない火災のように思える。従来工法とは違う建て方をされた建物や,従来の経験にはない可燃物の火災に対した場合にどのような消防戦術を取ればいいのだろうか。火災の研究は,研究者の数が少ないこと,実際にその火災が起こらないとニーズを理解してもらい難いことなどから技術進歩の後追いになりがちであるが,例えばRDFの性状については情報がないわけではなかった。RDFが何故発熱しているのか理由を考えてみることはできなかったのだろうか。特殊な火災に遭遇することはまれではあろうが,消防の指揮を執る者には従来以上の幅広い知識およびそれに基づく洞察力を養ってもらいたい。

第50号

上野信吾 <三菱総研>
冷夏にも助けられた形の日本の電力供給であるが、そんな日本がお盆休みの最中、ニューヨークを含む広い範囲で大停電が起きた。
生活、経済活動のあらゆる場面で電力に頼っている現代人にとって停電は明らかに安全を脅かす事件であろう。しかも人や都市機能が集中する大都会においては。交通事故、犯罪、医療機器の作動異常などによる人的な被害や健康障害のみならず、財産や環境の保全(近年の国際標準の考え方ではこれらも安全の範疇)をも脅かす原因として容易に連想できる。現状の報道ではニューヨーク市だけで経済的な損失額は1,250億円と報じられている。
確かに経済的な被害は甚大だったに違いないし、現地の人々の不自由さは大変なものだったであろうが、丸1日以上もの大停電であったにもかかわらず社会的な混乱は存外大きくなかったと感じるのは筆者だけであろうか。もし、このような規模の停電が東京を中心とした地域で起きたらどうだったであろうかと考えると不安になる。同時多発テロを経験したニューヨークだからこそ「危機に対する備え」ができていたのであろうか。報道でも「大きな混乱はなく市民は落ち着いて行動している」とのコメントが印象に残る。被害の拡大を抑えたニューヨークの精神的な「危機に対する備え」はこのコラムのタイトルである「セイフティ・はーと」に相通じるものだ、と停電の事件を思って感じた。

第49号 安全分野のCOEは?

板垣晴彦   < (独)産業安全
7月17日に今年度の「センター・オブ・エクセレンス」(卓越した拠点)の採択結果133件を文部科学省は発表した。世界レベルの研究教育拠点を10の学問分野ごとに形成し、創造的な人材育成を図ろうというものだ。研究所>
昨年と今年で合わせて246件が採択され、各プログラムには1件あたり年間1~5億円程度が原則として5年間交付されるという。応募総数は1000を超え、さらに先端研究が多いために同じ分野の研究者による審査が必要となり、結局1000人を超える研究者が審査にあたったそうである。
 10の分野の中に安全分野はないが、採択された246件の中から安全と関連がありそうなプログラムを探したところ、次が見つかった。
 災害学理の究明と防災学の構築                   京都大学防災研究所
 ユピキタス社会における災害看護拠点の形成     兵庫県立看護大
 安全と共生のための都市空間デザイン戦略        神戸大学
 先導的建築火災安全工学研究の推進拠点     東京理科大
 「平和・安全・共生」研究教育の形成と展開       国際基督教大学

それぞれのプログラムについて概要を調べてみた。
 東京理科大のプログラムは、「火災に対する人命と財産の保護」の観点で建築火災に関する最先端の研究を推進するとともに人材育成の場を提供することにより、21世紀に貢献しようとするものだそうだ。そのほかは、「災害に強い都市づくり」や「災害時の対処」、「防災の情報科学」といった大規模災害を対象としたプログラムが中心のようだ。常に安全であって災害のない生活が我々の共通する願いであること が、このようなプログラムの採択につながる理由のひとつになっているのではなかろうか。そんなことを調べている時、日頃「安全」を「工学」の観点でばかり見ていることにふと気がついた・・・。
 来年度の募集はない。4年後の次回にはどんなプログラムが採択されるだろうか?

第48号 安全工学誌に論文の投稿を!そして情報発信を

福田隆文 <横浜国大>
7月10,11日に安全工学シンポジウムが開催された。今回は安全工学協会が幹事学会だったの、多くの会員が企画委員会に参画している。
その努力が報われて、かなりの盛況だった。また、企業の方の参加が多かった。このことは、安全問題の関心の大きさを物語っている。
 ところで、安全工学の専門学会である当安全工学協会の「安全工学研究発表会」も例年通り開催される。会誌・会告によれば今年は金沢で開催されるそうである。ここでは、安全技術から事故調査や安全の考え方まで幅広い領域の優れた研究発表がされているし、活発に討論もされている。しかし残念ながら研究発表会予稿集だと、それほど多くの人の目には触れない。一方、「安全工学」は大学の図書館にも配架されるし、記事はJSTをはじめとする抄録誌にも載るので、適切なキーワードを付与すれば、多くの研究者によって検索され読まれる。
 そこで、もう一歩研究が進んだら、それをまとめて 安全工学誌に投稿していただきたいと思う。他学会誌で安全関係の記事を読むと結構、本誌の記事が引用されている。つま、本誌は専門学会の機関誌としてそれなりの評価を得ている。論文については、査読委員2名による厳しい査読を行っている。会誌に論文が多数載ることで、新しい知見の発信が行える。それが安全工学誌の発展につながるし、日本の安全工学の発展にもつながると思う。

第47号 企業倫理

大島 榮次
この所、矢継ぎ早に企業の反社会的な行為に関するニュースが報道されており、高圧ガス設備の認定検査制度でも、実際に検査をしていないにもかかわらず適当な数値を書いて県に虚偽の報告書を提出するという法律違反が発覚した。
 東京電力で起きた違反行為と殆ど同じ構造の事件である。 法律で決められている検査周期は頻繁過ぎるので、明らかに安全性には関係がないという技術的な常識を法律に優先させてしまった行為である。 従来、法定検査は県の立会の下で行われて来たが、検査項目も多くすべての検査に立ち会うことが出来ないので、充分信頼するに足る検査が行われていることを確認する程度に留まってしおり、日程調整などで検査の能率にも影響があるということから、高圧ガス保安法に基づく認定制度では自主的に事業所の社員が県に代わって立会、監査をすることが出来るようになったものである。 しかし、事業所の認識としては、検査管理組織とは検査を管理する内部監査的な機能であるとしか理解していない節が見られる。 今回の事件に関しては、実際には釈明とは程遠いものであったにせよ、会社の責任者の説明と謝罪は表明されたが、本来はそれとは別に検査管理組織の責任者から何故不正行為を阻止することが出来なかったかの説明が行われるべきである。 それは、検査管理組織の担当は事業所長が任命するが、彼らは社会から負託された法の番人であるからなのである。 現行の認定制度では簡単に違法行為が可能であるということを事業所自らが証明したとすら思える今回のスキャンダルを見るにつけ、検査管理組織に携わる者の資格として単なる経験年数だけではなく、保安に対する考え方、そして何より企業倫理に関して強い責任感を持っているいることを確認する具体的な手続きが必要ではないかと考えている。 

第46号 韓国邸丘の地下鉄惨事に想う

坂 清次 <(株)三菱総合研究所>
(その2 北陸トンネル内列車火災事故)

 韓国の地下鉄事故は、密閉空間といえる地下4階で起きている。司令室の状況の過小判断、対向車が通過せず駅で停止し、なおかつ鍵をかけてしまったことなど的確な判断、指示、行動がとれていないことが惨事の原因であろう。
1972年11月6日01:09に、北陸トンネル内での急行「きたぐに」の列車火災事故は、死者30名、負傷者714名を出す大事故であった。老朽した食堂車から出火した火災が、停止した列車に広がったためで、停電し長いトンネルの中央部ということもあり脱出に障害となったものである。走り抜けば8分でトンネルを通過する時点であったが、当時の国鉄の運転保安規定が「事故時はまず停止」という大原則であったために、現場で停車したため被害を拡大している。超高圧の交流電流ということもあり、消火設備も連絡設備も不備であった。電化が裏目に出ているが、昔の蒸気機関車なら排煙設備が当然設けられていたであろう。ロンドンの世界最初の地下鉄では、蒸気機関車が走っていたようで、乗客は煤煙に悩まされ酸欠の危険を身をもって体得していたであろう。乗客にも自衛策として、知識と行動が求められているのである。
なお最新の長大トンネルである英仏間のユーロトンネルでも、車両火災が発生している。いかに事故から学ぶか、教訓とするか、もって他山の石としたい。 ご安全に

第45号 安全情報の活用に向けて

若倉正英  <神奈川県産業技術総合研究所>
化学物質の危険・有害性や事故事例、国内外の関連法律や条令に関する多様な情報が、インターネット上で提供されています。
最近、独立行政法人産業技術総合研究所が科学技術振興事業団のバックアップのもとに公開した「リレーショナル事故データベース」は、主として国内の数千件の化学事故例を掲載していますが、それに加えて事故進展フロー(事故に関連した作業者の行動、機器の状態、事故が拡大した要因などからなる事故の時系列的な流れ)や、関連物質の熱分析チャートを含む事例もあり興味深いデータベースです。また、本年度改訂された化学便覧(日本化学会)では、安全に関する化学技術情報を数値データで載せるというこれまでの形式から、ウェブ上での検索をも考慮して多くの情報サイトを紹介しています。安全工学協会でも協会誌や本年度の安全工学シンポジウムでのオーガナズドセッションなどを通して、様々な安全情報の紹介に努めております。今後は、それらの多様な情報をいかに現実の安全活動に活用するかが重要な課題になると思われます。そこで、当協会では安全情報委員会を立ち上げ、安全情報の活用に関する手法の検討や、安全専門家の人的情報などの整備など行うべき作業の基礎固めを始めております。安全情報委員会の活動内容や方向性に対して、会員各位のご意見、ご要望をお聞かせいただきたいと念じる次第です。

第44号

<野田市   平田 勇夫>
最近、ドミニク・ラピエ-ル/ハビエル・モロ共著「ボーパール 午前零時五分」(上巻、下巻:長谷泰訳、川出書房新社)を読んだ。
この本は、1984年12月2日深夜から3日にかけてインド・ボーパールで発生したメチルイソシアネート(MIC)の漏洩事故を主題にしたノンフィクションである。出版後4週間して、フランス・ノンフィクション新刊部門のトップになり、そして、フランスでは16万部を売り(スペイン15万部、イタリア14万部)、報道出版賞を受賞したということである。
 この事故の直接原因は「MIC配管を水洗していた水が、錆などとともにMICの貯槽のひとつに流れ込み、発熱分解反応を起こした」と記述している。そして、根本原因に繋がるそのときの状況が説明されており、整理するとつぎのとおりである。

1.工場の生産停止から1か月以上経っていたにもかかわらず、3基ある貯蔵タンクうち2基には合計63トンのMICが貯蔵されていた。本来は、工場停止の段階でMICを処理し、タンクは除害の処置を済まして置くべきであった。

2. 貯蔵タンクは、0℃付近に冷却して管理することになっていたが、冷却設備は1ヶ月以上も運転されていなかった。その結果、MICは大気温度(約20℃)になっていた。

3. 除害塔とフレアは前の週から保守工事のために解体されており、運転できる状態になかった。

4. 貯槽タンク内温度の警報装置は電源が切られ、機能しない状態になっていた。

5. タンク周囲のMIC配管の水洗作業をやるとき、貯槽タンクとの縁切りは、バルブを閉じただけであった。本来、仕切り板の挿入などを行い完全に縁切りをすべきであった。

6. 設備の維持管理状態が適切でなかった。

7. 多くの住民が居住する地区のすぐ近くにMICを取り扱う工場を設立した。

これらは、運転管理、設備管理および工事管理に問題があったことを示している。また、著者は、この会社の組織・安全文化面の問題点についても繰り返し記述している。
 多数の地域住民が死亡した保安史上最大級のこの災害が発生して約20年になるが、「事故の教訓」を再認識した。また、ジャーナリズムの視点から描かれたインド市街地周辺の社会状況はリアリテイーに富み大変おもしろかった。

第43号 「Good Luck」と言うために

<三菱総合研究所 野口和彦>
今年の1月から3月までの日曜日は、21時からTBS系で「Good Luck」を観るのが楽しみであった。この番組は、視聴率30%を超えるお化け番組であり、主演は木村拓也であった。
この手のトレンディドラマは、基本的には観ないのであるが、この番組は面白かった。
何が私を引き付けたのか。
この番組に出てくる男達が格好良いのである。この番組は、パイロット達の物語である。従って職業ももちろん俳優も見栄えが良いのであるが、私がこの男達を格好良いと思ったのは、別の理由による。それは、男達の責任感、自分の持つ操縦桿に500人の命を預かっているという使命感を持ち働く姿が、格好良いのである。自分の体調、乗客の精神状態や体調に対する気遣い、同僚との協力と信頼、先読みによる対処、あらゆる面でプロの姿が見受けられる。
我々が働くとき、このような緊張感とプロ意識を持って働いているであろうか。
日々の仕事における安全の確保にとって、責任感と緊張感そして仕事への誇りが如何に大切かをこの番組は教えてくれる。
この番組のDVDは、安全意識の向上に有効である。安全担当者は、経費でこのDVDを買っても、会社に決して損はかけないはずである。
少なくとも安全関係者は是非一度ご覧下さい。
では、Good Luck!

第42号 鉄腕アトムの時代

<科学警察研究所>   中村 順
平成14年に起こった爆発事故は新聞記事を整理してみると33件であった。それ以降も爆発事故の件数は減らないが、それ以上に気になるのが、同様の事故が繰り返し起こっていることである。
携帯電話に使用されるマグネシウム合金枠の研磨作業における粉じん爆発事故、産業廃棄物にかかわる事故、たとえばスプレー缶の廃棄によるLPGガス漏洩爆発事故、放射線取扱事業所における混触爆発などである。 ここ数年繰り返し発生をみている事故や、あるいは重大な事故を起こし、注意が喚起されているにもかかわらず再び起こすなど深刻である。またかってそれ程多くなかった火薬工場における爆発事故も最近多くなったようにみえる。
こう書いているときにも鹿児島で近年最大の花火工場の爆発事故が発生した。
個々の事故原因はさまざまであるが、過去の貴重な事故事例を他山の石としないで対岸の火事としてしか見ないのだろうか。あるいは、法的に規制でもかけない限り安全対策に取り組む気がないのかと考えてしまう。
平成15年4月7日は鉄腕アトムの誕生日である。かって21世紀は鉄腕アトムの時代であり夢と希望に満ちているように見えた。ところが21世紀に入ってから起こっているこの世の中の出来事は、その希望がむなしいものであったように思える。絶望的なのだろうか。いや、かっての希望がむなしいものであれば、また絶望も虚無である。
業績のV字型回復を果たした自動車会社の社長の異名は「コストカッター」だそうであるが、彼がコミュニケーションを大切にして社員のやる気を出させたことが評価されている。社員のモチベーションの高さが会社の復活を成し遂げた原動力だといわれている。安全がV字型回復とはいかないかもしれないが、こうしたことに携わる人のモチベーションは決して低いことはないと考えている。