セーフティー・はーと
第50号
上野信吾 <三菱総研>
冷夏にも助けられた形の日本の電力供給であるが、そんな日本がお盆休みの最中、ニューヨークを含む広い範囲で大停電が起きた。
冷夏にも助けられた形の日本の電力供給であるが、そんな日本がお盆休みの最中、ニューヨークを含む広い範囲で大停電が起きた。
生活、経済活動のあらゆる場面で電力に頼っている現代人にとって停電は明らかに安全を脅かす事件であろう。しかも人や都市機能が集中する大都会においては。交通事故、犯罪、医療機器の作動異常などによる人的な被害や健康障害のみならず、財産や環境の保全(近年の国際標準の考え方ではこれらも安全の範疇)をも脅かす原因として容易に連想できる。現状の報道ではニューヨーク市だけで経済的な損失額は1,250億円と報じられている。
確かに経済的な被害は甚大だったに違いないし、現地の人々の不自由さは大変なものだったであろうが、丸1日以上もの大停電であったにもかかわらず社会的な混乱は存外大きくなかったと感じるのは筆者だけであろうか。もし、このような規模の停電が東京を中心とした地域で起きたらどうだったであろうかと考えると不安になる。同時多発テロを経験したニューヨークだからこそ「危機に対する備え」ができていたのであろうか。報道でも「大きな混乱はなく市民は落ち着いて行動している」とのコメントが印象に残る。被害の拡大を抑えたニューヨークの精神的な「危機に対する備え」はこのコラムのタイトルである「セイフティ・はーと」に相通じるものだ、と停電の事件を思って感じた。