セーフティー・はーと

セーフティー・はーと

第51号 消防士の安全は?

大谷英雄  <横浜国立大学大学院工学研究院>
8月19日に発生した「三重ごみ固形燃料発電所」のRDF貯槽の爆発事故により消防士2名が死亡した。このような消火作業中の消防士の死亡事故が国内では東京や神戸,さらに大きなものとしてはニューヨークのワールドトレードセンタービルで起こったのもまだ記憶に新しいところである。
消火活動というのは常に危険にさらされているが,これらは従来の知見では対応できない火災のように思える。従来工法とは違う建て方をされた建物や,従来の経験にはない可燃物の火災に対した場合にどのような消防戦術を取ればいいのだろうか。火災の研究は,研究者の数が少ないこと,実際にその火災が起こらないとニーズを理解してもらい難いことなどから技術進歩の後追いになりがちであるが,例えばRDFの性状については情報がないわけではなかった。RDFが何故発熱しているのか理由を考えてみることはできなかったのだろうか。特殊な火災に遭遇することはまれではあろうが,消防の指揮を執る者には従来以上の幅広い知識およびそれに基づく洞察力を養ってもらいたい。

第50号

上野信吾 <三菱総研>
冷夏にも助けられた形の日本の電力供給であるが、そんな日本がお盆休みの最中、ニューヨークを含む広い範囲で大停電が起きた。
生活、経済活動のあらゆる場面で電力に頼っている現代人にとって停電は明らかに安全を脅かす事件であろう。しかも人や都市機能が集中する大都会においては。交通事故、犯罪、医療機器の作動異常などによる人的な被害や健康障害のみならず、財産や環境の保全(近年の国際標準の考え方ではこれらも安全の範疇)をも脅かす原因として容易に連想できる。現状の報道ではニューヨーク市だけで経済的な損失額は1,250億円と報じられている。
確かに経済的な被害は甚大だったに違いないし、現地の人々の不自由さは大変なものだったであろうが、丸1日以上もの大停電であったにもかかわらず社会的な混乱は存外大きくなかったと感じるのは筆者だけであろうか。もし、このような規模の停電が東京を中心とした地域で起きたらどうだったであろうかと考えると不安になる。同時多発テロを経験したニューヨークだからこそ「危機に対する備え」ができていたのであろうか。報道でも「大きな混乱はなく市民は落ち着いて行動している」とのコメントが印象に残る。被害の拡大を抑えたニューヨークの精神的な「危機に対する備え」はこのコラムのタイトルである「セイフティ・はーと」に相通じるものだ、と停電の事件を思って感じた。

第49号 安全分野のCOEは?

板垣晴彦   < (独)産業安全
7月17日に今年度の「センター・オブ・エクセレンス」(卓越した拠点)の採択結果133件を文部科学省は発表した。世界レベルの研究教育拠点を10の学問分野ごとに形成し、創造的な人材育成を図ろうというものだ。研究所>
昨年と今年で合わせて246件が採択され、各プログラムには1件あたり年間1~5億円程度が原則として5年間交付されるという。応募総数は1000を超え、さらに先端研究が多いために同じ分野の研究者による審査が必要となり、結局1000人を超える研究者が審査にあたったそうである。
 10の分野の中に安全分野はないが、採択された246件の中から安全と関連がありそうなプログラムを探したところ、次が見つかった。
 災害学理の究明と防災学の構築                   京都大学防災研究所
 ユピキタス社会における災害看護拠点の形成     兵庫県立看護大
 安全と共生のための都市空間デザイン戦略        神戸大学
 先導的建築火災安全工学研究の推進拠点     東京理科大
 「平和・安全・共生」研究教育の形成と展開       国際基督教大学

それぞれのプログラムについて概要を調べてみた。
 東京理科大のプログラムは、「火災に対する人命と財産の保護」の観点で建築火災に関する最先端の研究を推進するとともに人材育成の場を提供することにより、21世紀に貢献しようとするものだそうだ。そのほかは、「災害に強い都市づくり」や「災害時の対処」、「防災の情報科学」といった大規模災害を対象としたプログラムが中心のようだ。常に安全であって災害のない生活が我々の共通する願いであること が、このようなプログラムの採択につながる理由のひとつになっているのではなかろうか。そんなことを調べている時、日頃「安全」を「工学」の観点でばかり見ていることにふと気がついた・・・。
 来年度の募集はない。4年後の次回にはどんなプログラムが採択されるだろうか?

第48号 安全工学誌に論文の投稿を!そして情報発信を

福田隆文 <横浜国大>
7月10,11日に安全工学シンポジウムが開催された。今回は安全工学協会が幹事学会だったの、多くの会員が企画委員会に参画している。
その努力が報われて、かなりの盛況だった。また、企業の方の参加が多かった。このことは、安全問題の関心の大きさを物語っている。
 ところで、安全工学の専門学会である当安全工学協会の「安全工学研究発表会」も例年通り開催される。会誌・会告によれば今年は金沢で開催されるそうである。ここでは、安全技術から事故調査や安全の考え方まで幅広い領域の優れた研究発表がされているし、活発に討論もされている。しかし残念ながら研究発表会予稿集だと、それほど多くの人の目には触れない。一方、「安全工学」は大学の図書館にも配架されるし、記事はJSTをはじめとする抄録誌にも載るので、適切なキーワードを付与すれば、多くの研究者によって検索され読まれる。
 そこで、もう一歩研究が進んだら、それをまとめて 安全工学誌に投稿していただきたいと思う。他学会誌で安全関係の記事を読むと結構、本誌の記事が引用されている。つま、本誌は専門学会の機関誌としてそれなりの評価を得ている。論文については、査読委員2名による厳しい査読を行っている。会誌に論文が多数載ることで、新しい知見の発信が行える。それが安全工学誌の発展につながるし、日本の安全工学の発展にもつながると思う。

第47号 企業倫理

大島 榮次
この所、矢継ぎ早に企業の反社会的な行為に関するニュースが報道されており、高圧ガス設備の認定検査制度でも、実際に検査をしていないにもかかわらず適当な数値を書いて県に虚偽の報告書を提出するという法律違反が発覚した。
 東京電力で起きた違反行為と殆ど同じ構造の事件である。 法律で決められている検査周期は頻繁過ぎるので、明らかに安全性には関係がないという技術的な常識を法律に優先させてしまった行為である。 従来、法定検査は県の立会の下で行われて来たが、検査項目も多くすべての検査に立ち会うことが出来ないので、充分信頼するに足る検査が行われていることを確認する程度に留まってしおり、日程調整などで検査の能率にも影響があるということから、高圧ガス保安法に基づく認定制度では自主的に事業所の社員が県に代わって立会、監査をすることが出来るようになったものである。 しかし、事業所の認識としては、検査管理組織とは検査を管理する内部監査的な機能であるとしか理解していない節が見られる。 今回の事件に関しては、実際には釈明とは程遠いものであったにせよ、会社の責任者の説明と謝罪は表明されたが、本来はそれとは別に検査管理組織の責任者から何故不正行為を阻止することが出来なかったかの説明が行われるべきである。 それは、検査管理組織の担当は事業所長が任命するが、彼らは社会から負託された法の番人であるからなのである。 現行の認定制度では簡単に違法行為が可能であるということを事業所自らが証明したとすら思える今回のスキャンダルを見るにつけ、検査管理組織に携わる者の資格として単なる経験年数だけではなく、保安に対する考え方、そして何より企業倫理に関して強い責任感を持っているいることを確認する具体的な手続きが必要ではないかと考えている。