セーフティー・はーと

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第46号 韓国邸丘の地下鉄惨事に想う

坂 清次 <(株)三菱総合研究所>
(その2 北陸トンネル内列車火災事故)

 韓国の地下鉄事故は、密閉空間といえる地下4階で起きている。司令室の状況の過小判断、対向車が通過せず駅で停止し、なおかつ鍵をかけてしまったことなど的確な判断、指示、行動がとれていないことが惨事の原因であろう。
1972年11月6日01:09に、北陸トンネル内での急行「きたぐに」の列車火災事故は、死者30名、負傷者714名を出す大事故であった。老朽した食堂車から出火した火災が、停止した列車に広がったためで、停電し長いトンネルの中央部ということもあり脱出に障害となったものである。走り抜けば8分でトンネルを通過する時点であったが、当時の国鉄の運転保安規定が「事故時はまず停止」という大原則であったために、現場で停車したため被害を拡大している。超高圧の交流電流ということもあり、消火設備も連絡設備も不備であった。電化が裏目に出ているが、昔の蒸気機関車なら排煙設備が当然設けられていたであろう。ロンドンの世界最初の地下鉄では、蒸気機関車が走っていたようで、乗客は煤煙に悩まされ酸欠の危険を身をもって体得していたであろう。乗客にも自衛策として、知識と行動が求められているのである。
なお最新の長大トンネルである英仏間のユーロトンネルでも、車両火災が発生している。いかに事故から学ぶか、教訓とするか、もって他山の石としたい。 ご安全に

第45号 安全情報の活用に向けて

若倉正英  <神奈川県産業技術総合研究所>
化学物質の危険・有害性や事故事例、国内外の関連法律や条令に関する多様な情報が、インターネット上で提供されています。
最近、独立行政法人産業技術総合研究所が科学技術振興事業団のバックアップのもとに公開した「リレーショナル事故データベース」は、主として国内の数千件の化学事故例を掲載していますが、それに加えて事故進展フロー(事故に関連した作業者の行動、機器の状態、事故が拡大した要因などからなる事故の時系列的な流れ)や、関連物質の熱分析チャートを含む事例もあり興味深いデータベースです。また、本年度改訂された化学便覧(日本化学会)では、安全に関する化学技術情報を数値データで載せるというこれまでの形式から、ウェブ上での検索をも考慮して多くの情報サイトを紹介しています。安全工学協会でも協会誌や本年度の安全工学シンポジウムでのオーガナズドセッションなどを通して、様々な安全情報の紹介に努めております。今後は、それらの多様な情報をいかに現実の安全活動に活用するかが重要な課題になると思われます。そこで、当協会では安全情報委員会を立ち上げ、安全情報の活用に関する手法の検討や、安全専門家の人的情報などの整備など行うべき作業の基礎固めを始めております。安全情報委員会の活動内容や方向性に対して、会員各位のご意見、ご要望をお聞かせいただきたいと念じる次第です。

第44号

<野田市   平田 勇夫>
最近、ドミニク・ラピエ-ル/ハビエル・モロ共著「ボーパール 午前零時五分」(上巻、下巻:長谷泰訳、川出書房新社)を読んだ。
この本は、1984年12月2日深夜から3日にかけてインド・ボーパールで発生したメチルイソシアネート(MIC)の漏洩事故を主題にしたノンフィクションである。出版後4週間して、フランス・ノンフィクション新刊部門のトップになり、そして、フランスでは16万部を売り(スペイン15万部、イタリア14万部)、報道出版賞を受賞したということである。
 この事故の直接原因は「MIC配管を水洗していた水が、錆などとともにMICの貯槽のひとつに流れ込み、発熱分解反応を起こした」と記述している。そして、根本原因に繋がるそのときの状況が説明されており、整理するとつぎのとおりである。

1.工場の生産停止から1か月以上経っていたにもかかわらず、3基ある貯蔵タンクうち2基には合計63トンのMICが貯蔵されていた。本来は、工場停止の段階でMICを処理し、タンクは除害の処置を済まして置くべきであった。

2. 貯蔵タンクは、0℃付近に冷却して管理することになっていたが、冷却設備は1ヶ月以上も運転されていなかった。その結果、MICは大気温度(約20℃)になっていた。

3. 除害塔とフレアは前の週から保守工事のために解体されており、運転できる状態になかった。

4. 貯槽タンク内温度の警報装置は電源が切られ、機能しない状態になっていた。

5. タンク周囲のMIC配管の水洗作業をやるとき、貯槽タンクとの縁切りは、バルブを閉じただけであった。本来、仕切り板の挿入などを行い完全に縁切りをすべきであった。

6. 設備の維持管理状態が適切でなかった。

7. 多くの住民が居住する地区のすぐ近くにMICを取り扱う工場を設立した。

これらは、運転管理、設備管理および工事管理に問題があったことを示している。また、著者は、この会社の組織・安全文化面の問題点についても繰り返し記述している。
 多数の地域住民が死亡した保安史上最大級のこの災害が発生して約20年になるが、「事故の教訓」を再認識した。また、ジャーナリズムの視点から描かれたインド市街地周辺の社会状況はリアリテイーに富み大変おもしろかった。

第43号 「Good Luck」と言うために

<三菱総合研究所 野口和彦>
今年の1月から3月までの日曜日は、21時からTBS系で「Good Luck」を観るのが楽しみであった。この番組は、視聴率30%を超えるお化け番組であり、主演は木村拓也であった。
この手のトレンディドラマは、基本的には観ないのであるが、この番組は面白かった。
何が私を引き付けたのか。
この番組に出てくる男達が格好良いのである。この番組は、パイロット達の物語である。従って職業ももちろん俳優も見栄えが良いのであるが、私がこの男達を格好良いと思ったのは、別の理由による。それは、男達の責任感、自分の持つ操縦桿に500人の命を預かっているという使命感を持ち働く姿が、格好良いのである。自分の体調、乗客の精神状態や体調に対する気遣い、同僚との協力と信頼、先読みによる対処、あらゆる面でプロの姿が見受けられる。
我々が働くとき、このような緊張感とプロ意識を持って働いているであろうか。
日々の仕事における安全の確保にとって、責任感と緊張感そして仕事への誇りが如何に大切かをこの番組は教えてくれる。
この番組のDVDは、安全意識の向上に有効である。安全担当者は、経費でこのDVDを買っても、会社に決して損はかけないはずである。
少なくとも安全関係者は是非一度ご覧下さい。
では、Good Luck!

第42号 鉄腕アトムの時代

<科学警察研究所>   中村 順
平成14年に起こった爆発事故は新聞記事を整理してみると33件であった。それ以降も爆発事故の件数は減らないが、それ以上に気になるのが、同様の事故が繰り返し起こっていることである。
携帯電話に使用されるマグネシウム合金枠の研磨作業における粉じん爆発事故、産業廃棄物にかかわる事故、たとえばスプレー缶の廃棄によるLPGガス漏洩爆発事故、放射線取扱事業所における混触爆発などである。 ここ数年繰り返し発生をみている事故や、あるいは重大な事故を起こし、注意が喚起されているにもかかわらず再び起こすなど深刻である。またかってそれ程多くなかった火薬工場における爆発事故も最近多くなったようにみえる。
こう書いているときにも鹿児島で近年最大の花火工場の爆発事故が発生した。
個々の事故原因はさまざまであるが、過去の貴重な事故事例を他山の石としないで対岸の火事としてしか見ないのだろうか。あるいは、法的に規制でもかけない限り安全対策に取り組む気がないのかと考えてしまう。
平成15年4月7日は鉄腕アトムの誕生日である。かって21世紀は鉄腕アトムの時代であり夢と希望に満ちているように見えた。ところが21世紀に入ってから起こっているこの世の中の出来事は、その希望がむなしいものであったように思える。絶望的なのだろうか。いや、かっての希望がむなしいものであれば、また絶望も虚無である。
業績のV字型回復を果たした自動車会社の社長の異名は「コストカッター」だそうであるが、彼がコミュニケーションを大切にして社員のやる気を出させたことが評価されている。社員のモチベーションの高さが会社の復活を成し遂げた原動力だといわれている。安全がV字型回復とはいかないかもしれないが、こうしたことに携わる人のモチベーションは決して低いことはないと考えている。