セーフティー・はーと

セーフティー・はーと

第26号 最近の事故例に対して思うこと

小川輝繁   <横浜国立大学大学院 工学研究院>
「以前は管理職、特に課長級の人は現場のことは細かい点までよく熟知していたが、最近は管理職の現場の把握が乏しくなってきている」という話をよく聞きます。
確かに事故事例の中には、管理職が現場の仕事をよく把握していなかったことが原因の一つと考えられるようなものが少なからず見受けられます。このように、管理職が現場の隅々まで把握することが難しくなる背景は経営の合理化に伴い、管理職の守備範囲が広くなっていることや認証制度の普及拡大に伴って文書化が求められるためデスクワークが増大していることなどが挙げられます。
また、最近の事故例をみると組織の中枢部の目が行き届きにくい部分で起こっているものが多いと思われます。組織の中枢部が危険性を強く認識して関心をもっている部分ではほとんど事故は起こっていないと思われます。事故が起こった後、現場で行っている作業を事業所の幹部が初めて知ったというような例も見られます。周辺部の仕事を管理職がよく把握して適切な措置を講じることのできる仕組みを作っていくことが安全確保のために重要ではないかと考えている昨今です。

第25号 安全工学実験講座

飯塚義明   <三菱化学㈱ STRC 環境安全工学研究所>
今から22年前、私達の研究室は、新規物質の合成における不安定物質の分解危険性や反応の走危険性の定量的な評価法の研究に着手した。
当時に比べて、現在は、断熱熱量計ARC、DSCそして反応熱量計のRC1、小型熱量計CRCと評価に使用する機器類は多種多様になっている。危険要因や発現条件の摘出さらには対策案の提示が非常に効果的に行える時代になっている。但し、問題なのは、DSCなどの発熱データだけで安全性評価が行われていることである。プロセスのセーフティー・アセスメントやセーフティー・レビューは、この実態感のないデータをベースに「安全」とか「危険」とかが議論されているような気がしている。このような個人的な危機感から、実際に起こる災害事象(反応機からの内容物の噴出から火災の発生、または反応機や蒸留塔の爆発)をいろいろな人達に体験して頂こう思い体験講習会なるもの昨年企画した。これは、協会の普及委員会の特別講習会とて、日本カーリット㈱のご協力を頂き、紅葉の伊香保温泉におけるの座学とヒドロキシアミンの熱分解爆発試験や冷却系統の異常から発生する反応暴走のモデル実験を体験していただいたものであった。参加者から好評を得て図に乗り、今年もう一度新たな講習会を企画中(10月末を予定)である。今回は、より現実に近いモデル、例えば、空気中に長時間さされた有機溶媒を蒸留した場合、どうなるか?
別なモデルテストとして、廃棄物などの集積で問題となる混触や自然発火現象の再現を先の熱分析データと対比させながら、宿舎での参加者による模擬アセスメントもいれた講習会を考えている。

第24号 There is always one more question

練馬区    西 茂太郎
最近、内部や外部機関による監査(サーベイ)の重要性が増して来ている。
過日、米国のある有名なリスクサーベーヤーにサーベイする際の心構えをレクチャーして貰ったことがある。
 冒頭に紹介した言葉「There is always one more question」が今でも頭に残っている。彼曰く「刑事コロンボだよ。コロンボが犯人と思しき人を訪ねていろいろ質問する。私は忙しいから帰ってくれと言われて、帰りかける。ドアのところまで行ってもう一度振返って、もう一つ教えて下さいよとあれをやるんだよ。」と。
 「疑問を持つ、さらに疑問を持つ、つとめてこれをやる。」事実を知ろうとすることは、Suspicious(猜疑心)では無く、技術者としてInquiring(知りたい)、very interested(非常に興味深いこと)ではないか。
当たり前の分かりきった質問を重ねる中で、お互いの意思統一がなされ、結果として出席者の信頼関係が作られる。それが安全を確保するための原点なのだと教えて貰った。

第23号 「知識化」や「教訓」の次に来るもの

和田有司  <(独)産業技術総合研究所>
このたび普及委員会委員を拝命しました。安全工学の重要性は誰もが認めるところですので,安全工学協会の普及にはどこかに突破口があると信じて微力ながらお手伝いしたいと思います。
さて,前号の福田先生や19号の若倉氏が書かれているように,最近,事故事例を活用しようという動きが各方面でみられます。それも,事故事例データベースを作るのではなく,「知識化」や「教訓」として事故事例を一般化して事故防止に役立てようという動きです。おそらく次は,こうした「知識」や「教訓」を分野を越えて活用するために,得られた「知識」や「教訓」を学問として体系化し,教育するシステムが必要になるでしょう。幅広い分野の「知識」や「教訓」を学問として体系化し,それ教育するための安全教育システムを構築するのは,幅広い分野の安全の専門家の方々が集まっている安全工学協会にしかできないことではないかと感じています。

第22号 災害事例解析と防止対策検討委員会の活動

福田 隆文    <横浜国大>
当協会学術委員会に「災害事例解析と防止対策検討委員会」(委員長:横浜国大・関根教授)が設置され,活動しています。
私も委員ですので,その紹介をしたいと思います。失敗学などの言葉が新聞などに出てくることが多くなりました。現在,いくつかの学会などが協力して失敗事例データーベースの構築と活用の検討が進められています。ここでは,建築,化学物質・プラントなど4分野で,各々数100件程度の失敗事例データベースを作るそうです。一方,私たちの委員会は,データベースではなく,絞り込んだいくつかの事例につ いて,直接原因だけでなく背後にある要因や根本原因にまで遡って解析し,教訓を抽出し,更に再発防止に何が大切かを導き出そうというものです。現在,40余件の事例について,解析のための資料収集と視点をどこの置くかの討論を行っています。絞り込んだ事例からの解析ですので,「読み物」として通読して,共に考え,普遍的な教訓を導き出せるものにしたいと考えています。 失敗事例データベースと相互補完的に活用して頂けると考えています。成果は成書としてまとめます。期待して頂きたいと思います。