セーフティー・はーと

セーフティー・はーと

第6号 大災害

<中村  順>
昨年、わが国では化学工場、火薬工場での大きな爆発事故を経験し、また比較的に工場災害の多い年であったように思う。
それに比べて今年は、穏やかで、こういう時にこそ、足元を見直してと考えていた。ところが、米国における同時多発テロは、あまりに悲惨であり、しかも今後も世界に対して大きな混乱をもたらすことが予想される。そしてこの災害がニュースのほとんど占めているときに、フランスのツールーズ郊外にある化学工場AZFで大規模な爆発事故が発生した。まだ詳細は不明であるが、死者29名、負傷車700名で、直径50m、深さ15mのクレーターが生じているという。硝安を製造している工場とのことで過去の大きな爆発事故を思い出させる。しかもこれが化学薬品の混合ミスといわれており、さらに爆ごうを起こす可能性のあるものを一挙に爆発させる貯蔵方法なり停滞量があったわけで、これも驚くべきことである。
こうした災害は、直接、間接に日本に影響を及ぼしてくるであろうし、また、日本でも起こりうることである。安全に関しても、他国でのこうした災害に対して一人一人が深く考える必要があるであろう。

第5号 安全マニュアルの風化防止を

<システム安全研究所 高木 伸夫>
世の中マニュアル社会である。業態に応じて多種多様なマニュアルが存在する。ファーストフードチェーンの多くでは注文したもののほかに、これはいかがですか、これもいかがですかとうるさいほどの同じ問い合わせに会う。
同系列のチェーン店ではどこに行っても同じ笑顔で迎えられる。マニュアルどおり対応である。アルバイトを使い、大量にものをさばく業界にあっては、個人の能力に期待することは避けマニュアルに従った受け答えをするほうが効率的であるし、マニュアルから若干外れた対応をしても決定的なミスを防ぐことはできるであろう。それでは産業分野における安全に関するマニュアルはどうか。装置産業では事故を教訓として安全作業マニュアルが作成されることが多い。事故の悲惨さを覚えている間はマニュアルが作成された背景を誰もが理解しているためマニュアルは遵守される。しかし、年月が過ぎ、マニュアル作成に携わったベテランが職場から去り世代交代が起るとマニュアルの風化が始まりやすい。面倒だからこのステップは省こう、これくらいなことなら問題ないだろうと手抜きがなされ、これにより事故が発生する。JCOの事故もこの要素を含んでいる。安全マニュアルからの逸脱は取り返しのつかない事態に発展する危険性が高い。マニュアルの風化防止が必要である。そのためには、安全マニュアル作成の背景、マニュアルに記述されている内容それぞれの意味を定期的に教育していくことが必要といえよう。

第4号 セーフティー・はーとによせて

(2001年8月22日  西郷  武 )
昭和30年頃 横浜国立大学教授 北川徹三先生が安全工学の重要性を世に問うて すでに四十数年が経過した。
当時、わが国では戦後初めて石油精製工場の運転が再開され、石油化学工場の操業も始まり、これらの工場で発生する爆発・火災の防止・軽減のために安全工学が必要であった。発足当初は化学安全工学であったと思われる。その後高度成長時代に入り、自動車事故による死亡者の増加、大量生産大量消費による廃棄物の問題、大気汚染による公害問題が発生し始め安全工学の検討課題も広がった。最近生じた航空機の墜落事故、原子力発電所の関連事故、医療事故、ダイオキシンの問題などは一般市民にまで影響を及ぼし社会問題となっている。また、二酸化炭素の増加は地球全体の環境破壊につながり、従来のリスクとは質が異なる。安全工学誌上に安全文化に関する論文もみられるようになり、各種機関による安全の本質についてのシンポジウムが盛んに開かれている。安全学とか失敗学など安全に関する科学哲学の提案もみられる。各分野に共通した安全に関する学問体系の確立が望まれる。

第3号 安全教育と安全情報

横浜国立大学大学院工学研究院   小川輝繁
事故やトラブルの原因の大半は人間が係っているため、各事業所では安全教育を保安対策の重要な柱にしておられるように見受けられます。人の危険回避能力は知識と経験に裏打ちされており、さらにこれらを危険予知に生かすことが重要です。
そのため、現場では危険予知の能力を高める教育訓練としてKYT活動が行われています。危険予知には潜在危険を洗い出してこれらのリスク(発生頻度と影響の大きさ)を評価する必要があります。人はこのリスク評価を無意識的に行い、危険回避を行っています。危険予知能力を高めるためには潜在危険の洗い出しとリスク評価を体系的に行えるようにする必要があります。この能力を身につけさせることが安全教育に求められます。安全に関する知識は科学技術の知識と事故やヒヤリハット等の体験に基づくものです。そのため、企業では社内外の事故情報を社内に周知し、また社内のヒヤリハットを収集することにより体験を活かす努力をしています。また、安全に係る業務を行っている行政機関では事故データベースの整備を行っています。また、文部科学省では事故等の失敗知識の社会的共有・活用のため「失敗知識データベース整備事業を科学技術振興財団に委託しました。このように事故情報データベースを整備し、公開する動きが活発となっています。多くの事故情報は活用するためには内容が不十分でありますが、この中から安全教育や安全技術に活用できる情報を抽出して整理することが必要です。

第2号 安全との付き合い

三菱化学㈱STRC 環境安全工学研究所 飯塚義明
「安全」と言う言葉と付き合って、ほぼ28年になる。安全技術開発を担当し始めた当時は、酸化プロセスの燃焼爆発、粉じん爆発の限界測定が主体であった。安全確保と製造コスト増という問題に最初に直面したのが、ある酸化プラントのプロセス変更であった。
安全確保のための追加投資を、熱っぽく説き、その結果、担当専務のご了解を頂き、感激し、そして、その責任の重さに恐怖した。それ以降、産業の発展と安全確保の調和をライフワークとして、今日まできた。今年は、当社の技術開発分野の大幅な組織改正があり、「環境安全工学研究所」と言う組織が生まれた。技術担当役員から三菱化学㈱本体だけではなくグループ会社全体の製造プロセスと製品の安全確保の援助することがミッションと言われた。そして、今若い研究員達が産業に必要な技術として、認知された「安全技術」の成熟を目指し日夜がんばっている。そして、安全を始めから専業の職業として、企業で働くことを目指している現役の学生諸君も出てきた。今、そんな「安全」を技術として正面から捉えている彼等の夢を壊さないようにすることが、私の義務となった。三菱化学と言う一企業を超えて、産業、科学の発展と安全との調和に挑戦する技術者の育成に少しでも役立ちたいと思っている。