セーフティー・はーと

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第61号 カンボジアの地雷処理

小川 輝繁 <横浜国立大学 大学院>
昨年12月にカンボジアの地雷処理を視察した。カンボジアの地雷処理の組織はカンボジア地雷対策センター(CMAC)である。
カンボジアでは内戦時代に敷設された膨大な数の地雷が埋められており、現在のペースでは全て除去するのに100年以上かかるといわれている。また、ベトナム戦争での米軍の空爆の不発弾が大量に埋まっている。地雷により子供を含む一般人が手足を失う悲惨さが報道されている。カンボジア全土での地雷による事故の死傷者数は1998年には1640人であったが、CMACの調査、広報等の活動の成果で年々地雷事故の死傷者数は減少し、2002年は366名である。一方、不発弾の事故による死傷者はほとんど横這いで、2001年以降は不発弾事故による死傷者数が地雷事故によるものより多い。
 地雷や不発弾の処理活動に対して国際的な援助が求められている。日本からは資金援助の他、NPO法人に本地雷処理を支援する会(JMAS)がカンボジアに専門家を派遣してCMACと連携して主に不発弾の処理活動を行っている。プノンペンンでCMASの本部、JMASのカンボジア事務所を訪問し、JMASがプレイヴェーン州で行っている不発弾処理活動状況やポーサット州のCMASの地雷処理活動等を視察したが、JMASの高山良二現地副代表に全工程案内して頂いた。山田良隆現地代表、高山副代表をはじめ日本人専門家は自衛隊のOBで危険な仕事にもかかわらずボランティアとして活動している。高山副代表は自衛隊のPKO隊員としてカンボジアのタケオで活躍されたが、その時地雷・不発弾事故撲滅の重要性を痛感され、自衛官退官後直ちにカンボジアにおける地雷・不発弾処理の活動に参加された。同氏が「できるだけの多くの人が無理をしないでできる範囲内で地雷処理に貢献して頂くことを望んでいる。」といわれたことが印象に残っている。この言葉は安全活動にも当てはまると思われる。安全活動も関係者が自分のできる範囲で安全化に取り組むという意識を常に持っていることが必要ではないでしょうか。

第60号

フェロー 飯塚義明   <㈱三菱化学科学技術研究センター>
私事で恐縮ですが,昨年3月に環境安全工学研究所の所長職を退任し、6月には、定年退職を迎えました。引き続き、研究組織が独立した研究センターに勤務をしています。
三菱化成工業㈱の時代からほぼ30年間安全に関する研究やおよび製造現場への安全支援を行って着ました。年間生産量が何十万トンというプラントと50kgが商業レベルというプラントまで幅広く体験できたことは、安全をライフワークとするに貴重な経験でした。ここ数年は、製品安全という分野に手を染め、現在も小さいながら特定分野の安全性評価を研究するプロジェクトを運営しております。「製品安全」と「製造安全」と異なる点は、安全意識そのものにあるようです。例えば、一般大衆に近い製品で、使用者に被害を加えるイベントの発生は、その製品の存在(売れ行きの低下)が脅かされる。そのため、あらゆる最悪ケースを想定した評価を必要とされる。一方、製造は必要悪と言うと言い過ぎなるかも知れませんが、致命的な事故が発生しない限り、根本的な改善を施さないままずるずると生産活動を続ける。生産の周囲もそれを認める風潮があり、日本代表をするような企業が、その典型例をおこしている。「製品安全」という世界からもの作りの世界を見たとき、そのギャップは、なんとも表現しがたい。生産技術に国家間の差が無くっている昨今、日本のもの作りは、製品安全レベルの安全意識で取り組んでいって欲しいものです。

第59号 今こそ自主管理の徹底を

西 茂太郎
2004年の新年が明けました。今年こそ良い年にしたいと誰もが思っておられることと思います。それにしても昨年は安全に携わる者にとっては色々と苦難の一年であったと思います。
何故事故が立て続けに起こるのか?共通した原因があるのではないかと。事故を起こした側の社会的責任は当然であり、厳しく問われてしかるべきと思いますが、長期的な視野に立った場合、今こそ自主管理を徹底すべきだと思います。
 安全確保のために日本では、「Zero Event Tolerance(事故はゼロでなければならない)」、欧米では「ALARP(as low as reasonably practicable:合理的に実行できる中で可能な限り少なくする)」というコンセプトです。
「Zero Event Tolerance」コンセプトの強制の弊害は、規制と基準のありように表れています。日本と欧米の法律の明らかな違いの一つはその規定の仕方で、欧米の規制は「ゴール志向」であり、日本ではほとんどがゴール志向ではなく、微に入り細に入り規定しています。このことは行政機関にとっては法律遵守状況のチェックに容易である反面、産業界を知らず知らずのうちに、法的責任ばかり負わせられる自由度のないリスク管理に追いこんでしまっています。企業が独自にリスク管理することを結果として行政が邪魔しています。しかし結局、日本の企業は行政が敷いた事故防止の路線を歩むしかない状況に陥っているのが実態ではないでしょうか。
 これから脱却するための取り組みがいくつかなされつつありますが、事故が発生したら新たな規制強化という今までのパターンから脱却し、中途半端な自主管理から徹底した自主管理へ移行しなければ真の安全確保は達成できないと考えます。

第58号 生き物に学ぶ

佐藤研二 <東邦大学>
先ほど金沢工業大学において開かれた安全工学発表会では,安全の意味について考えさせられる2件の特別講演があった。
向殿政男氏は「情報安全」の題のもと様々な切り口から安全を考える安全マップの内容を含めた話をされ,長尾隆司氏は「身の丈に合った生活 ―コオロギから見た人間社会―」と題した話をされた。筆者は所用のため長尾氏の講演は聞くことができなかったが予稿集の文章を興味深く読ませていただいた。ある種の人工的な生育環境に置かれたコオロギは本来の適応能力が大きくゆがめられてしまうという内容が述べられていた。
 これらの話題から取り留めのないことを考えてみた。
 様々な環境の中で弱点を持ちながらも命をつないできた生き物(生命体)は,細胞レベルで,個々の個体で,または,仲間,種などのまとまりとして,危険を回避しあるいは受けたダメージから回復して生き延びようとする性質とそのための能力や習性を属性として持っている。この能力と習性は,大きく見ると多くの生き物に共通する部分と個々の生き物の種類の体の構造や行動様式の違いに適するように特化した部分とから成り立っていて,これに個体差が加わる。
 飛行機の例をみるまでもなく生き物を手本にあるいはヒントに発達してきた科学技術は多い。安全工学関係でも,生活,産業,環境等での安全に関連した技術やシステムの課題について解決方法を考えるときに生き物がヒントになってきた部分が多々あると思うが,その関連性が強く意識されたものは意外と少ないようにも思える。今後,生き物が長い進化の過程で獲得してきた多様な能力や習性についてより深く知りさらに人間と他の生き物の間での,あるいは他の生き物間でのそれらの比較も進めることで安全工学に関係する新たな展開が生まれてくる可能性も考えられる。これまでに知られているこのような能力や習性を安全工学的な観点をふまえてまとめたデータベースのようなものがあってもよいのではないだろうか。

第57号 CSRに思う

天野 由夫 <出光興産 安全環境室>
最近、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉を耳にする機会が多くなって来ている。CSRは簡単に言うと企業の社会的責任であり、企業が社会の一員として持続的に事業を展開するため果たすべき責任のことである。
CSRが求めているのは、単に、法律を守っているだけでなく、最近はこれも守らず問題になっているケースもあるが、企業の倫理規範の遵守、公正な企業活動、社会貢献等がある。欧米では、この動きが顕著となってきている。日本も近い将来、消費者や投資家はこのようなCSRを尺度として企業を峻別する時代が来ると考えられる。その中でも、CSRではステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たすこと要求している。CSRの中には当然、環境や安全の分野も含まれている。安全の場合で言えば、企業の安全確保に対する努力や姿勢を利害関係者に普段から説明することが必要である。不幸にも事故が発生した場合も同様、ステークホルダーは誰で、どのような内容、手段等によって、説明責任を果たすのか、考えなければならない。過去、往々にして、安全の説明では、安全上の問題点を明示することなく、しっかりやっているとか、安全に対しては最大限の努力を傾けているという姿勢論の説明が多くなされてきた。CSR等を考えると、安全の説明責任を果たすためには、今後、あまり積極的に公表してこなかった安全上の問題を明確に示し、そのため、このような安全確保の努力を行っているという説明が必要となって来るのではないかと思う。ステークホルダーを明確にし、納得させるような説明を普段から準備することが今後、大切になってくると思う。

以 上

第56号 廃棄物処理施設における火災・爆発事故

安田憲二
最近、廃棄物処理施設における火災・爆発事故が多発している。例として、第51号で取り上げた8月19日の「三重ごみ固形燃料発電所」における爆発事故のほかに、11月5日の早朝に神奈川県大和市で発生した「生ごみ処理機」の爆発事故などがある。
これらは、いずれも貯留、処理の過程で発生した可燃性ガスが直接の原因であると考えられているが、詳細は不明である。
 廃棄物処理施設での爆発事故としては、昭和52年ごろから焼却施設の灰バンカー内における爆発事故が数多く報告されている。この原因は灰と冷却水が反応して可燃ガスが発生したためであるが、これらの事故は思いがけない場所で起こることが多く、しかも可燃ガスが発生することに関して認識があまりないことから、原因不明として扱われることが多い。このため過去の経験が生かされず、現在もこの種の事故が繰り返されている。
 現在、労働災害の発生は毎年減少しているが、廃棄物処理業では発生率がきわめて高いうえに減少していないなど、ほかの産業と比べて特異な状況にある。これまで、廃棄物処理に関しては処理技術の開発が主であり、安全性に対してあまり注意が払われてこなかった。可燃性ガスによる火災・爆発事故は死亡事故を招くことが多いことから、今こそ専門家の英知を集め、事故の撲滅に向け奮起すべき時ではないか。

第55号

西 晴樹  <独立行政法人 消防研究所>
平成15年9月26日に発生した十勝沖地震では、行方不明者2名、負傷者844名などの人的被害、1676棟の住家被害、火災4件などの被害が発生した(平成15年10月23日20:00現在)。
この火災4件のうち2件は、屋外タンク貯蔵所の火災であり、かつ、同一の事業所で発生したものであった。日本において、地震で屋外タンク貯蔵所が火災となった事例としては、昭和39年の新潟地震での事例や昭和58年の日本海中部地震での事例があるが、最近はほとんどその例を聞いたことがなかった。
 火災原因の究明は、消防機関のこれからの調査を待たねばならぬが、当該火災が与えた社会的影響を考慮すると、火災原因調査は早急に、かつ、徹底的に行われなければならないであろう。
 今年は、日本を代表する企業の事故や火災が続発しており、こうした事態を踏まえて、総務省消防庁では、関係企業から関連事項についてヒアリングを実施したり、関係各省と相談しながら、「産業事故災害防止対策推進関係省庁連絡会議」を発足させ、産業事故災害の防止について、情報交換および安全対策の検討を行っている。
 こうした活動展開していくことにより、このような災害の再発を防止し、みんなが安心できるような防災体制が確立されることを願う次第である。

第54号 国立大学法人化

土橋 律
国立大学は、平成16年4月から法人化することが決まっている。法人化により組織運営など様々な点が変化するが、安全衛生管理においては、適用法規が人事院規則から労働安全衛生法(安衛法)に変更となる。
これに伴い、衛生委員会設置、衛生管理者選任(資格取得が必要)、局所排気装置設置(有機溶剤や特化物使用時)などが必須となり、準備に追われている。さらに、現在は罰則の規定が無く責任体制が不明確なのに対し、安衛法では罰則が明確に規定され、労働基準監督署の監督のもと厳格に適用されることなるため、責任体制確立や責任者の意識改革が課題となっている。実際、現状では、国立大学の実験室と、安衛法が当初から適用されている企業の研究所の実験室を比較すると、安全衛生管理や安全設備において国立大学の実験室は明らかに劣っていると言わざるを得ない。このような差異が生じてしまったのには、法規の違いのみならず、企業と大学の組織や管理の違い、面積や予算の問題など様々な背景があると思われる。しかし、大学は教育機関であり人材育成の場であることを考えると、大学の実験室では模範的な安全衛生管理のもとで教育、研究をおこなわなければならないことは自明である。危険作業時の安全衛生管理について、大学を卒業した学生が企業に入って始めて知るという今の状況は異常と言わざるを得ない。
 したがって、国立大学は、この機会を良いチャンスととらえ、安全衛生管理の大幅なレベルアップ実現することが肝心であると思う。安全衛生管理には、労力や費用が必要であるが、確実な管理を実施し安全な教育研究環境を提供できるか否かが、今後各大学の評価に大きく影響してくることは間違いないと思われる。

第53号 2003年7~9月の火災爆発事故

田中 亨
産業施設での火災爆発事故が多発しています。セメント工場石炭サイロの爆発(7月22日)、ごみ固形燃料(RFD)発電所でのRDF貯蔵タンク火災(8月14日)と同じタンクの爆発火災事故(8月19日)、
油槽所でのタンク改修工事中のガソリンタンク火災(8月29日)、製鐵所のコークス炉ガス用ガスホルダーの爆発炎上と隣接高炉ガス用タンクの誘爆事故(9月3日)、タイヤ工場の大規模火災(9月8日)等です。2ヶ月弱の間に、これほどの数の事故が続くと、何か共通する問題が隠れているように思われます。事故が発生した企業の業種は異なっており、共通する問題があるならば、業種に限られることなく、次の事故発生が懸念されます。事故調査がなされ、いずれそれぞれの事故原因は明らかにされるでしょうが、その結果が明らかになるまでは、過去の経験や業界の常識の枠を超した観点からの事故予防に注力する必要があります。

第52号

高野研一
今朝、全国の国立大学の病院での事故防止の取組みに変化が起きているとの報道がNHKで紹介されていた。
病院での事故(顕在事象)、ささいなミス(ニアミス)、ヒアリハット(潜在事象)の分析を専門家が徹底しておこなったところ、個人の不注意というよりもむしろ組織や医療システムに係わるいわゆる「組織要因」がこれらのインシデントを引き起こしている実態がしだいに明らかにされ、担当の安全推進室の医師は衝撃を受けたという内容である。これに対するアンチテーゼとして、事故は個人がしっかり注意すれば防げるという古典的な意見がいまでも根強いが、不注意によるミスは後を絶たない。これを防止するには、精神訓ではなく、地に足が着いた組織としての対応である。そのような取組みには、「人・物・金」がかかるために二の足を踏むケースが多いが、ミスを起こしにくい、機器構造、確認システム、コミュニケーションシステムが求められる。さらに、院内従事者の負担軽減、チーム医療による相互チェックなど包括的な取組みが不可欠である。