セーフティー・はーと

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第86号 疑問・質問事故事例

中村 順 <科学警察研究所>
先日,全国の県警において火災,爆発事故の現場調査を担当されている科学捜査研究所の技官の方々と事故事例について話し合う機会を持ちました。電気火災,化学火災,爆発事故など多くの事故事例について発表していただき大変参考になりました。
また,既に原因調査結果が報告されている過去の事例について,その事故時の周囲の状況や事故の背景などを教えていただき,そうしたこともあるのだと納得することが多くありました。私共は,事故現場調査に訪れても,時間も限られており,事故の直接的な原因に係わる部分に重きを置かざるを得ませんが,県警の方は,長期にわたって調査を担当されており,後になって判明する事実や,より細かく掘り下げた考察があり,改めて現場でじっくりと調査をされている方との連携が重要だと思いました。

そのなかで,出席者の方から事故原因がうまく究明できたものと,事故原因が特定できないか,あるいはよくわからず,疑問の残った事例,他の県で同様な事例がなかったか質問してみたい事例を分けて発表してはどうかとの意見がありました。さらに,疑問・質問のある事例は,あらかじめ出席者に,その疑問・質問に関する情報を流しておき,それを参加者間でディスカッションするといいのではないかということでした。

最近,失敗事例を生かそうということが言われていますが,事故原因調査に関しても原因究明の出来た成功事例ばかりでなく,疑問の残った事例や,他の人にきいてもらいたい質問事例も取り上げて検討するのも必要だと思いました。

次の会議では,参加者同士で疑問・質問事故事例について,同種事故の調査経験のある人の意見や,どういうことが考えられるか,何を現場で調べたらそれを明らかに出来るかなど大いに議論を深めたいと考えています。

第85号

高木伸夫 <システム安全研究所>
1:29:300というハインリッヒの法則が示すように,大きな事故の背景には300という小さなトラブルが発生しており,小さなトラブルを防止することが大きな事故の防止につながる。
安全工学協会では,石油産業安全基盤整備事業の一環として(財)石油産業活性化センターのもとで石油各社の委員の協力を得て製油所を対象としたヒヤリハット事例を活用するプロジェクトを進めている。なお,対象とするヒヤリハットは滑った・転んだといった行動災害に関するものでなく,危険物質の漏洩や火災・爆発,装置の破損につながる恐れのあるヒヤリハット(いわゆるプロセスヒヤリ)である。どのようなヒヤリハットがどのような装置で発生しているのか,発生要因は何か,何故ヒヤリハットでとどまり事故にまで進展しなかったのかなど,ヒヤリハットに関する情報の体系化をはかり,石油産業における安全基盤の強化に役立てようとするものである。平成16年度は予備調査を行なったが,今後,平成19年度までの3ヵ年で事例収集とヒヤリハット情報処理システムの構築を図る予定である。地道な作業であるがこのシステムが完成し事故の予防に役立てれば幸いであると思っている。

第84号 同じ様な事故を繰り返さないために

島田行恭 <産業安全研究所>
先日,ある工場の爆発事故調査に同行しました.1名死亡7名重軽傷という被災状況でした.現場に入ったのは事故発生の翌日でした.
現場に着く前に入手した情報からは様々な原因が予想され,調査の目的はその推測を確実にするための証拠探しであるかのようにも感じられました.当日は被災された方がまだ手当を受けていらっしゃるということで,事故当時どのような作業が行われていて,何がトリガー(引き金)となって爆発に至ったかは明らかにされませんでした.経験的判断からいくつかの事故シナリオも予想されていますが,今後,被災者の方が元気になられ,お話が聞けるようになれば,事故発生の真の原因が解明されることと思います.

ここ数年,安全技術情報の共有や技術伝承問題への取り組み,事故事例データベースの構築などに関する研究が盛んに行われるようになりました.安全工学協会でも昨年11月に情報安全研究委員会が設立され,(1)情報利用危険予知技術の確立,(2)熟練技術者の危険予知能力の収集と外部監視系への適用などをテーマとし,今後議論が進められていく予定です.今回の調査事故にも関連していますが,事故はちょっとしたミス(勘違い)や無知(知らなかった)から発生しています.「昨日までは何も問題なかったのに・・・」というような過信が事故に結び付いた例も数多くありますし,危険であることを知らなかったために予防することを考えていなかったという問題もあります.確かに事故は偶然が重なり合って初めて(ある意味,運が悪く)発生しますが,その偶然の確率を小さくするためには,決められたことだけを決められた通りに実行するのではなく,一つ一つの作業(行動)の理由(意味)を考え,Know-how(どうやるか)とKnow-why(なぜやるか)を理解した上で,確実に実行することが要求されます.あらかじめ予測できてしまうような過去に経験した同じ種類の事故を繰り返し発生させないためにも,安全に関する情報(知見と技術)や事故事例情報を共有し,事故発生の原因追及のためだけでなく再発防止にも役に立つような環境作りを考えていく必要があると思います.

第83号 仕組みと運用

小川輝繁 <横浜国立大学>
現在,我が国に事業所の安全対策をみると,重大な事故に発展する可能性のあるものについてはハード対策にコストをかけて,重大災害にならないようにする努力がなされている。
しかし,当然ながらハード対策だけでは事故防止を達成するのは現実的ではなく,ソフト対策を適切に組み合わせて安全対策を実施しているが,事故はなくならないので,各企業や事業所はソフト対策を如何に実施すべきかで腐心しておられるように見受けられる。

最近では,ISO取得や認定事業所のように,安全を担保するための仕組み作りが我が国にも定着しつつある。この仕組みはハード,ソフト両面から構築されるが,その運用が適切に行われないことによって事故が発生している。仕組みと運用については,そのバランス,整合性,持続性が重要である。立派な仕組みができると,それだけで安心して運用面に目が届かなかったり,せっかく立派な仕組みがあってもこれを運用する人が仕組みの本質や構造をよく理解しないために適切な運用ができなかったり,長い間に仕組みが変質することによって運用と整合性が悪くなったり,あるいは仕組みを運用する人の世代交代のときの伝承が悪いなどのために事故が発生している。

今後とも,安全の担保の仕組み作りが重要視されるようになると考えられるので,その運用面の配慮を怠らないようにすることが重要と考える。

第82号

飯塚義明 <㈱三菱化学科学技術研究センター フェロー>
阪神・淡路大震災からもうすぐ10年を経過しようとしている。高速道路,ビルの倒壊など近代都市部地震災害の衝撃的な様相をテレビ画面から見たのがほんの昨日のようである。   


5年前から娘夫婦が神戸に移り住み,これまで縁のなかった三宮市内や神戸埠頭に何度か足を運ぶ機会があった。テレビ画面で見た震災直後の惨状は,5年前には殆んど目にすることが無くなりつつあった。人工物の立ち上がりの早さに感心している。

昨年末起こった,新潟地震による山間部の崩壊,インドネシア・スマトラ島沖の巨大地震・津波は,多くの人命が失われた同時に,自然そのものが破壊されており,元へ戻すことは不可能なように思われ,心が痛む昨今である。