セーフティー・はーと

2003年8月の記事一覧

第50号

上野信吾 <三菱総研>
冷夏にも助けられた形の日本の電力供給であるが、そんな日本がお盆休みの最中、ニューヨークを含む広い範囲で大停電が起きた。
生活、経済活動のあらゆる場面で電力に頼っている現代人にとって停電は明らかに安全を脅かす事件であろう。しかも人や都市機能が集中する大都会においては。交通事故、犯罪、医療機器の作動異常などによる人的な被害や健康障害のみならず、財産や環境の保全(近年の国際標準の考え方ではこれらも安全の範疇)をも脅かす原因として容易に連想できる。現状の報道ではニューヨーク市だけで経済的な損失額は1,250億円と報じられている。
確かに経済的な被害は甚大だったに違いないし、現地の人々の不自由さは大変なものだったであろうが、丸1日以上もの大停電であったにもかかわらず社会的な混乱は存外大きくなかったと感じるのは筆者だけであろうか。もし、このような規模の停電が東京を中心とした地域で起きたらどうだったであろうかと考えると不安になる。同時多発テロを経験したニューヨークだからこそ「危機に対する備え」ができていたのであろうか。報道でも「大きな混乱はなく市民は落ち着いて行動している」とのコメントが印象に残る。被害の拡大を抑えたニューヨークの精神的な「危機に対する備え」はこのコラムのタイトルである「セイフティ・はーと」に相通じるものだ、と停電の事件を思って感じた。

第49号 安全分野のCOEは?

板垣晴彦   < (独)産業安全
7月17日に今年度の「センター・オブ・エクセレンス」(卓越した拠点)の採択結果133件を文部科学省は発表した。世界レベルの研究教育拠点を10の学問分野ごとに形成し、創造的な人材育成を図ろうというものだ。研究所>
昨年と今年で合わせて246件が採択され、各プログラムには1件あたり年間1~5億円程度が原則として5年間交付されるという。応募総数は1000を超え、さらに先端研究が多いために同じ分野の研究者による審査が必要となり、結局1000人を超える研究者が審査にあたったそうである。
 10の分野の中に安全分野はないが、採択された246件の中から安全と関連がありそうなプログラムを探したところ、次が見つかった。
 災害学理の究明と防災学の構築                   京都大学防災研究所
 ユピキタス社会における災害看護拠点の形成     兵庫県立看護大
 安全と共生のための都市空間デザイン戦略        神戸大学
 先導的建築火災安全工学研究の推進拠点     東京理科大
 「平和・安全・共生」研究教育の形成と展開       国際基督教大学

それぞれのプログラムについて概要を調べてみた。
 東京理科大のプログラムは、「火災に対する人命と財産の保護」の観点で建築火災に関する最先端の研究を推進するとともに人材育成の場を提供することにより、21世紀に貢献しようとするものだそうだ。そのほかは、「災害に強い都市づくり」や「災害時の対処」、「防災の情報科学」といった大規模災害を対象としたプログラムが中心のようだ。常に安全であって災害のない生活が我々の共通する願いであること が、このようなプログラムの採択につながる理由のひとつになっているのではなかろうか。そんなことを調べている時、日頃「安全」を「工学」の観点でばかり見ていることにふと気がついた・・・。
 来年度の募集はない。4年後の次回にはどんなプログラムが採択されるだろうか?