セーフティー・はーと

2003年12月の記事一覧

第58号 生き物に学ぶ

佐藤研二 <東邦大学>
先ほど金沢工業大学において開かれた安全工学発表会では,安全の意味について考えさせられる2件の特別講演があった。
向殿政男氏は「情報安全」の題のもと様々な切り口から安全を考える安全マップの内容を含めた話をされ,長尾隆司氏は「身の丈に合った生活 ―コオロギから見た人間社会―」と題した話をされた。筆者は所用のため長尾氏の講演は聞くことができなかったが予稿集の文章を興味深く読ませていただいた。ある種の人工的な生育環境に置かれたコオロギは本来の適応能力が大きくゆがめられてしまうという内容が述べられていた。
 これらの話題から取り留めのないことを考えてみた。
 様々な環境の中で弱点を持ちながらも命をつないできた生き物(生命体)は,細胞レベルで,個々の個体で,または,仲間,種などのまとまりとして,危険を回避しあるいは受けたダメージから回復して生き延びようとする性質とそのための能力や習性を属性として持っている。この能力と習性は,大きく見ると多くの生き物に共通する部分と個々の生き物の種類の体の構造や行動様式の違いに適するように特化した部分とから成り立っていて,これに個体差が加わる。
 飛行機の例をみるまでもなく生き物を手本にあるいはヒントに発達してきた科学技術は多い。安全工学関係でも,生活,産業,環境等での安全に関連した技術やシステムの課題について解決方法を考えるときに生き物がヒントになってきた部分が多々あると思うが,その関連性が強く意識されたものは意外と少ないようにも思える。今後,生き物が長い進化の過程で獲得してきた多様な能力や習性についてより深く知りさらに人間と他の生き物の間での,あるいは他の生き物間でのそれらの比較も進めることで安全工学に関係する新たな展開が生まれてくる可能性も考えられる。これまでに知られているこのような能力や習性を安全工学的な観点をふまえてまとめたデータベースのようなものがあってもよいのではないだろうか。

第57号 CSRに思う

天野 由夫 <出光興産 安全環境室>
最近、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉を耳にする機会が多くなって来ている。CSRは簡単に言うと企業の社会的責任であり、企業が社会の一員として持続的に事業を展開するため果たすべき責任のことである。
CSRが求めているのは、単に、法律を守っているだけでなく、最近はこれも守らず問題になっているケースもあるが、企業の倫理規範の遵守、公正な企業活動、社会貢献等がある。欧米では、この動きが顕著となってきている。日本も近い将来、消費者や投資家はこのようなCSRを尺度として企業を峻別する時代が来ると考えられる。その中でも、CSRではステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たすこと要求している。CSRの中には当然、環境や安全の分野も含まれている。安全の場合で言えば、企業の安全確保に対する努力や姿勢を利害関係者に普段から説明することが必要である。不幸にも事故が発生した場合も同様、ステークホルダーは誰で、どのような内容、手段等によって、説明責任を果たすのか、考えなければならない。過去、往々にして、安全の説明では、安全上の問題点を明示することなく、しっかりやっているとか、安全に対しては最大限の努力を傾けているという姿勢論の説明が多くなされてきた。CSR等を考えると、安全の説明責任を果たすためには、今後、あまり積極的に公表してこなかった安全上の問題を明確に示し、そのため、このような安全確保の努力を行っているという説明が必要となって来るのではないかと思う。ステークホルダーを明確にし、納得させるような説明を普段から準備することが今後、大切になってくると思う。

以 上