セーフティー・はーと

2004年9月の記事一覧

第77号

西 晴樹 <独立行政法人 消防研究所>
平成15年度から平成16年度にかけては,火災原因調査や事故調査などで災害現場や事故現場となった事業所に出かけることが多々あった。
それらの事業所では,消防法上の危険物(例えば,ガソリンや原油)や高圧ガスなどを使用し,それぞれの事業活動を行っており,一旦災害となれば,失われる生命や財産は多大なものとなりうる。

ここで,火災や事故に至る原因はそれぞれであるが,一旦事故という非常事態に遭遇した場合,対処方針の策定までの遅れや実施に際しての躊躇が出てくることが多いように見受けられる。こうした災害時の対応としては,各法令に基づいた訓練や,自主的な訓練が 行われているものと聞いており,訓練においては十分な手応えを得ているものと推測している。それにも拘わらず,実際の災害においては遅れや躊躇が出てくるのはなぜなのであろう。

もちろん,考えられるすべての火災や事故について,訓練を行うことも不可能であろうし,また,訓練の範囲で火災や事故が起こってくれるとは限らないことも確かである。しかしながら,こうした遅れや躊躇を見ていると実際の災害がどのようなものなのかを,普段はあまり想像する機会もとれないことも要因の一つと思われる。

最近は,日本を代表する企業における火災や事故が多発しており,こうした事態は早急に終息させたいものである。災害の再発を防止し,みんなが安心できるような防災体制が確保されることを願う。様々な立場にいる人が,それぞれ想像力をたくましくし,日々,現実に近い訓練を重ねることが無用な火災,事故を起こさないための,秘訣なのであろうと感じている。

第76号 安全教育

土橋 律 <東京大学>
私は,いくつかの安全関係の委員会等に参加する機会があるが,そのような席で,例えば化学プラントの安全を確保するためには何が必要かと考えていったとき,PDCAによる管理サイクル,リスク評価,設備対応,保全や変更管理などやるべきことは
様々挙がってくるが,突き詰めていくとどうしても外せない重要なものは安全教育であるという点に行きあたることが何度かあった。様々な管理が効果を発揮するのも,作業者の安全への十分な認識が必要なわけであり,高度な安全設備を設置していても使用者が適切な使用法を理解していなければ役に立たないわけである。さらに,事故や災害の原因の多くに,ヒューマンエラーが関与していると言われているが,この点からも人間に対しての安全対策,すなわち安全教育が事故・災害防止に重要であることが理解できる。

このように安全を確保する上で,安全教育は無くてはならないものであることは自明と考えられるが,それでは,筆者は教育機関である大学に所属しているわけであるが,学校教育において安全はどのように取り上げられているのであろうか。残念ながら,大学においては,高等教育を受けた者の持つべき一つの素養として安全を位置付けていないのが現状である。もちろん,専門科目として安全に関係した講義は存在するし,学生実験のガイダンスでは通常安全上の注意が説明される。しかしながら,これらは関係する学生のみが受講し,在学中に必ず習得すべき位置付けにはなっていないのが現状である。小,中,高等学校においても,安全教育を必修項目として位置付けてはいないようである。安全文化の醸成などということがよく言われるが,そのためには子供の頃からの安全教育が是非必要と考えられる。小学校から大学まで,系統的・計画的に安全を教えることが必要ではないだろうか。安全の重要性に始まり,事故・災害をどのように防止するか,個人・企業・行政の果たすべき役割と責任などを系統的に教え,安全・安心な社会を支える次の世代を育成することが是非必要であると感じている。

最近,大きな事故や災害が発生すると,関係する企業や行政の責任追及にばかり目がいくように感じられる。安全教育を充実して,安全に関するしっかりした考え方,知識をもった人間を世に送り出していくことが,最終的にはこのような事故や災害の重要な対策となることにも,もう少し目を向けて欲しい。

第75号 安全工学あるいは安全工学協会の今後?

田中 亨
昨年は,大規模産業施設での火災事故が続発しました。今年は,大雨と台風による被害が多く発生しています。ご承知のように,例年,日本列島に上陸する夏台風は少ないのですが,今年は,8月末の時点で,すでに5つの台風が日本列島に災害をもたらしました。
被害は,6月の台風6号(死者2名/行方不明者3名/重傷者19名/軽症者99名,消防庁発表,以下同順序)から始まって,7月13~16日の新潟・福島豪雨(15名/1名/3名/1名),7月18~21日の福井豪雨(4名/1名/4名/15名),7月30~31日の台風10/11号(1名/2名/3名/16名),8月17~20日の台風15号と前線に伴う大雨(10名/-名/6名/16名),8月30~31日の台風16号(10名/3名/31名/209名)などです。(ここには記しませんでしたが,被害は人身災害に加えて,家屋損傷/浸水,田畑冠水などの多大な経済損失が含まれています。) 産業施設での事故災害の規模に比べると,被害者の数は大規模事故に相当し,その発生頻度も(今年の例では)極めて高いレベルにあります。自然災害に関しては,様々な領域で研究が進められていますが,災害防止/環境影響軽減するための総括的研究がこれまで以上に進められるべき分野と考えます。

安全工学協会のホームページに掲載されている安全工学協会概要の中の趣意[安全工学の社会的な役割(2000年2月14日更新)]の中の“3.安全工学の今後の方向”の項には,「(1)社会の安全を確保し,その安定化を図ることは,工学の一つの責務であり,その方法論について他の研究分野と協力しつつ確立していく。」と将来展望が書かれています。これまで,安全工学協会のメンバーは,化学物質や化学装置/施設に関連する安全問題,環境問題を研究あるいは関係する方が大半と思いますが,前述のように多大な被害を生じさせている自然災害の分野へも安全工学を応用展開(無論,他の領域の研究者と協力の上)してゆく必要性はあると考えます。また,この展開は,安全工学協会の意図している安全工学の社会的な責務“社会の安全の確保,その安定化”に合致していると思われます(趣意を書かれた方の意図を拡大解釈している可能性がありますが)。安全工学協会メンバーは,これらの分野での安全工学の展開について,如何にお考えでしょうか?(すでに,研究されている方がいるかもしれませんが。)

昨日は,防災の日でした。その9月1日夜8時過ぎ,浅間山が噴火しました。9月2日午前8時現在,被害は,噴石落下と降灰,それに長野原町の観光施設の玄関窓ガラスが空振 (空気振動)で破損と報じられています。農作物の被害状況は不明ですが,人身被害は発生していない模様です。将来は,噴火災害防止も安全工学の研究対象になり,火山研究者も安全工学協会のメンバー?