会長挨拶

安全工学会会長 土橋 律(どばし りつ)

 

 このたび,5月29日に開催された安全工学会総会および理事会の議を経て2024~2025年度の会長を拝命いたしました.学会の発展と学会活動が社会に貢献できるよう努力する所存ですので,なにとぞよろしくお願いいたします.
 近年は様々な社会環境等の変化があり,変化への対応が求められています.特に,2020年から本格化した新型コロナウイルス感染の影響に対しては,社会全体で否応なく対応しなければならない状況でした.学会活動においても様々な制約の中でおこなわなければなりませんでしたが,当時の三宅会長,武藤前会長のもとで様々な工夫をして学会活動を継続し新型コロナウイルスの時期を乗り越えることができたと思います.さらに,新型コロナウイルスのような未解明,未知のリスクにどのように対応するかについて安全工学会として議論がおこなわれました.
 昨年には新型コロナウイルスの感染はおさまり,武藤前会長のもと,総会,研究発表会などが制約の無い対面形式で開催されました.ここでは,新型コロナ前に戻っただけではなく,オンライン参加併用で参加の機会を増やすとともに,総会でパネルディスカッションをおこなうなどポストコロナにおける変革も意識した活動が進められてきました.さらに,国際化にも力を入れ,10月にタイのバンコクで開催されたAPSS(Asia Pacific Symposium on Safety)には安全工学会として開催に協力し,11月には安全工学会がCCPS(米国,化学プロセス安全センター)と合同でGSPS(Global Summit on Process Safety)を安全工学研究発表会と同じ会場(アクリエひめじ)で連続して開催しました.安全工学会からも多くの会員が参加して実りある意見情報交換ができたと感じています.
 新型コロナウイルスを経て,特に未知あるいは未解明のリスクへの対応という課題が明確になりましたが,近年の社会環境の変化の中,このような未知・未解明のリスクへの対応は今後とも重要になり,安全工学会としての対応も必要であると考えられます.地球規模の気候変動,大地震,少子高齢化など多くの課題があげられており,気候変動による自然災害の激甚化,気候変動対策のためのカーボンニュートラル化の新技術導入,大都市圏での大地震,あるいは労働者の高齢化など未知・未解明のリスクが内在していると考えられます.例えばカーボンニュートラル化の技術開発では,これまでのエネルギー高効率化やコスト削減を目標とした開発から,CO2削減が第一優先目標となり,これまでに無いプロセスの開発が必要となり,未知・未解明のリスクを含む可能性も増えています.
 これからの安全工学会としては,新型コロナウイルスを経て活性化を進めてきた活動の継承,すなわち安全工学研究発表会,研究会,会誌発行や講習会等開催,課題整理のパネルディスカッションなどの取り組み,さらに今や学会の資産となっている安全工学セミナーや安全工学実験講座などを継続的に実施し発展させることがまず重要です.さらにオンライン開催技術の活用,APSSやCCPSなどを通じた海外との積極的な交流を引き続き進めることも合わせておこなう必要があります.その上で,前述の未知・未解明のリスクを有する新たな課題について検討してゆくことが必要であると考えています.新たな課題への対応については,安全工学会は学会である特性を活かして学術的あるいは技術的に課題解明をおこない,その成果を社会の安全・安心のために普及するのが使命です.新たな課題の研究・調査やその成果発表の支援をおこない,普及や教育に成果を活かしてゆくことを念頭に学会の活性化につなげてゆきたいと思います.2024年の安全工学シンポジウムは,安全工学会が幹事学会となり「技術・社会の変化と安全工学のパラダイムシフト」というテーマを掲げて実施しました.まさにこの安全工学のパラダイムシフトに向けて進展を進めたいと考えています.このような未来に向けた安全工学会の活性化,発展をおこなうためには,会員の皆様の行動と支援が不可欠です.安全・安心な社会に向けた安全工学会の活動によろしくご協力をお願いします.