セーフティー・はーと

2002年4月の記事一覧

第18号 「安全文化」と保安管理

野田市   平田勇夫
チェルノブイ発電所の原子炉事故以降、世界の原子力発電の分野で安全文化の論議が行われるようになったが、1990年代後半まで日本国内ではあまり論議されていなかったように思う。
東海村での臨界事故、H-Ⅱ打ち上げ失敗などを契機に、政府が「事故災害防止安全対策会議」を開催(1999年秋)し「安全文化」の創造を取り上げてから、国内の原子力以外の産業分野においても注目されるようになった。このような流れの中で2000年末高圧ガス保安協会が「安全文化研究会報告書」を発行し、INSAGがまとめた安全文化の8つの要件(1991年)などについて敷衍している。その部分を読むと「安全文化」は保安管理そのものであることを痛感する。前者を後者(OSHAのPSM規則など)と対比して例示するとつぎのとおりである。
  1. 相互の確実、密接なコミュニケーション⇒「安全に関する情報の収集と教育」及び「事故調査・報告」
  2. 的確な手順の作成と厳守(学習の文化)⇒「操作手順の作成と周知徹底」
  3. 安全活動に対する厳格な内部監査(自立の文化)⇒「内部適合監査」
  4. エラーを率直に報告できる雰囲気作り⇒「事故の調査・報告」
「言わずもがな」のことを述べるが、これらの要件の基底には組織問題としてのヒューマンファクターの取り組みが含まれおり、上に例示した対比は機能的な保安管理システムの構築には、その組織において「安全文化」を醸成することが不可欠であることを示唆している。
最近保安関連法規・基準の性能規定化などが進められているが、わが国における安全管理が新しいパラダイムへの移行を始めたと見ることができる。これを実り多きものにするためには、関係者が「安全文化」の醸成について論議を深め、社会と安全を共有できるパラダイムを創造していく努力が必要であり、その責務を認識して対応することが重要である。