セーフティー・はーと
2004年4月の記事一覧
第66号 回転ドア災害と安全工学の常識
若倉正英 <神奈川産業技術総合研究所>
六本木ヒルズ(森ビル)の回転ドアに小学生がはさまれ、亡くなる事故があってから回転ドアの危険性が急にクローズアップされている。
六本木ヒルズ(森ビル)の回転ドアに小学生がはさまれ、亡くなる事故があってから回転ドアの危険性が急にクローズアップされている。
この事故はいくつもの教訓を含んでいるが、安全工学の分野で仕事をしている人間として強く感じるのは、安全工学が積み上げてきたものが、まだ世の中の一部でしか生かされていないのだという事実である。たとえば、回転機器などへの巻き込まれ、はさまれ災害は産業革命によって発生した、もっとも古典的な労働災害であり、多くの研究が積み上げられている。また、人間の行動予測に基づく労働災害の防止も、安全工学の重要な研究課題であり多くの成果が送り出されている。これらの成果は製造業や建設業、鉱山など事故の多かった職場を、安全な職場に変えることに多大の貢献をしてきているのである。
一方、森ビルの例だけでなく、遊具や、アミューズメント施設の事故などをみると、いずれも安全工学の知見がいかに生かされていないかが明らかになる。その原因の一つは、これらの機器を扱う事業者の認識の欠如であろう。回転機器や加熱機器など多くの機器装置があらゆる場所で使われている。これらは潜在的に危険性を有しているが、一般家庭で使われる場合誤用があっても事故を起こさない配慮がされており、これに対応できないものはすぐに市場から消えていく。しかし、事業用に使われる機器は明らかに異なる。大型であり、不特定多数の人に使われるなど潜在危険性は家庭用とは比べものにならない。これら機器を製作する、また使用する事業者は事前に安全性を確認しておく責任があるにもかかわらず、家庭用機器と同様に安全性に無頓着であることが多い。RDFや生ゴミ処理機の事故もその延長線上で発生しているのでないだろうか。
第65号
平田 勇夫 <野田市>
2000年6月、群馬県の事業所でヒドロキシルアミン(HA)蒸留装置が爆発し、死者4名と多数の負傷者を発生する惨事となった。その後、HAとその塩類の危険性が評価され、消防法危険物第5類に指定された。
2000年6月、群馬県の事業所でヒドロキシルアミン(HA)蒸留装置が爆発し、死者4名と多数の負傷者を発生する惨事となった。その後、HAとその塩類の危険性が評価され、消防法危険物第5類に指定された。
また、流通している化学物質の危険性が注目されことになり、消防庁は、危険性が高い物質で規制されていないものはないか、化学物質の危険性について認知したものがないか、その情報提供を事業者などに呼びかけている。
最近、海の向こうでも反応危険性の高い化学物質(Reactive Chemicals)の安全管理に関する論議が盛んになっている。ここで、「反応危険性」は、暴走反応、自己分解危険、混合・混触危険などである。
米国の化学安全調査委員会(CSB: Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、約2年をかけて1980年以降20年間に発生した化学物質が関与した事故167件を解析した。(これらの事故の中には1999年2月ペンシルヴァニア州アレンタウンで起きたHA蒸留設備の爆発事故も含まれている。)そして、2002年9月、
① これらの事故で108名が死亡
② 原因物質の50%はOSHAのPSM規則(1910.119)の規制対象に入っていない
③ 原因物質の60%はEPAのプロセス安全関係の規制対象に入っていない
④ 原因物質の36%はNFPAレイテイング(Ni)が付けられていない
などがわかったことを公表し、反応性化学物質の管理は重大な安全問題であるにも拘らず、効果的な規制が行われていないことを指摘した。そして、規制当局、関係学会・業界などに勧告を出している。例えば、OSHAに対してPSM規則(1910.119)に客観的な基準を採用し規制対象物質の範囲をひろげること、プロセスの安全に関する情報に反応性化学物質の情報を含めることなどを勧告している。一方、OSHAは、この勧告に対してPSM規則を改正するには時期尚早である趣旨の回答したが、最近CSBがこれに反論している。
化学物質を危険物に指定することにより、(国内では)既定技術基準を適用することが義務付けられ、注意して取り扱うことになるので安全管理のレベルを高めることができる。しかし、全ての潜在危険性物質を規制することは不可能といっても過言ではないだろう。増してや、取扱条件や混合・混触危険を全て加味した規制は難しい。大事なことは、化学物質を取り扱う者が、物質およびプロセス(物質+取扱条件)の危険性を科学的データに基づき十分評価して、事故発生防止と災害拡大防止の対策を実施、さらに上流の事業者が得た危険性情報をつぎの事業者に提供することだと思う。
以上