セーフティー・はーと

第66号 回転ドア災害と安全工学の常識

若倉正英 <神奈川産業技術総合研究所>
六本木ヒルズ(森ビル)の回転ドアに小学生がはさまれ、亡くなる事故があってから回転ドアの危険性が急にクローズアップされている。
この事故はいくつもの教訓を含んでいるが、安全工学の分野で仕事をしている人間として強く感じるのは、安全工学が積み上げてきたものが、まだ世の中の一部でしか生かされていないのだという事実である。たとえば、回転機器などへの巻き込まれ、はさまれ災害は産業革命によって発生した、もっとも古典的な労働災害であり、多くの研究が積み上げられている。また、人間の行動予測に基づく労働災害の防止も、安全工学の重要な研究課題であり多くの成果が送り出されている。これらの成果は製造業や建設業、鉱山など事故の多かった職場を、安全な職場に変えることに多大の貢献をしてきているのである。
 一方、森ビルの例だけでなく、遊具や、アミューズメント施設の事故などをみると、いずれも安全工学の知見がいかに生かされていないかが明らかになる。その原因の一つは、これらの機器を扱う事業者の認識の欠如であろう。回転機器や加熱機器など多くの機器装置があらゆる場所で使われている。これらは潜在的に危険性を有しているが、一般家庭で使われる場合誤用があっても事故を起こさない配慮がされており、これに対応できないものはすぐに市場から消えていく。しかし、事業用に使われる機器は明らかに異なる。大型であり、不特定多数の人に使われるなど潜在危険性は家庭用とは比べものにならない。これら機器を製作する、また使用する事業者は事前に安全性を確認しておく責任があるにもかかわらず、家庭用機器と同様に安全性に無頓着であることが多い。RDFや生ゴミ処理機の事故もその延長線上で発生しているのでないだろうか。