セーフティー・はーと

2001年9月の記事一覧

第5号 安全マニュアルの風化防止を

<システム安全研究所 高木 伸夫>
世の中マニュアル社会である。業態に応じて多種多様なマニュアルが存在する。ファーストフードチェーンの多くでは注文したもののほかに、これはいかがですか、これもいかがですかとうるさいほどの同じ問い合わせに会う。
同系列のチェーン店ではどこに行っても同じ笑顔で迎えられる。マニュアルどおり対応である。アルバイトを使い、大量にものをさばく業界にあっては、個人の能力に期待することは避けマニュアルに従った受け答えをするほうが効率的であるし、マニュアルから若干外れた対応をしても決定的なミスを防ぐことはできるであろう。それでは産業分野における安全に関するマニュアルはどうか。装置産業では事故を教訓として安全作業マニュアルが作成されることが多い。事故の悲惨さを覚えている間はマニュアルが作成された背景を誰もが理解しているためマニュアルは遵守される。しかし、年月が過ぎ、マニュアル作成に携わったベテランが職場から去り世代交代が起るとマニュアルの風化が始まりやすい。面倒だからこのステップは省こう、これくらいなことなら問題ないだろうと手抜きがなされ、これにより事故が発生する。JCOの事故もこの要素を含んでいる。安全マニュアルからの逸脱は取り返しのつかない事態に発展する危険性が高い。マニュアルの風化防止が必要である。そのためには、安全マニュアル作成の背景、マニュアルに記述されている内容それぞれの意味を定期的に教育していくことが必要といえよう。

第4号 セーフティー・はーとによせて

(2001年8月22日  西郷  武 )
昭和30年頃 横浜国立大学教授 北川徹三先生が安全工学の重要性を世に問うて すでに四十数年が経過した。
当時、わが国では戦後初めて石油精製工場の運転が再開され、石油化学工場の操業も始まり、これらの工場で発生する爆発・火災の防止・軽減のために安全工学が必要であった。発足当初は化学安全工学であったと思われる。その後高度成長時代に入り、自動車事故による死亡者の増加、大量生産大量消費による廃棄物の問題、大気汚染による公害問題が発生し始め安全工学の検討課題も広がった。最近生じた航空機の墜落事故、原子力発電所の関連事故、医療事故、ダイオキシンの問題などは一般市民にまで影響を及ぼし社会問題となっている。また、二酸化炭素の増加は地球全体の環境破壊につながり、従来のリスクとは質が異なる。安全工学誌上に安全文化に関する論文もみられるようになり、各種機関による安全の本質についてのシンポジウムが盛んに開かれている。安全学とか失敗学など安全に関する科学哲学の提案もみられる。各分野に共通した安全に関する学問体系の確立が望まれる。