セーフティー・はーと

セーフティー・はーと

第7号 これからのリスク管理に必要な広範囲なリスクの把握

(株)三菱総合研究所 安全科学研究本部   野口 和彦
~シュアティという概念の紹介~ 
最近の大きな自然災害による地域の危機や企業・組織の不祥事もからんだ危機の連続により、リスク管理の重要性の認識に関しては定着した感がある。
また、米国の同時テロの事件も発生し、あらゆることが起き得ることが実感となってきた。
 リスク管理を大きく分類すると事故や災害による直接の被害を主な対象とした場合に防災と呼ばれ、組織全体の問題として捉えられた場合、危機管理と呼ばれる場合があり、リスク管理も縦割りの状況である。
 また、これまでのわが国のリスク管理の特徴を考えてみると、業界によってその常識と対象が限定されていた。これまでの事故対応や防災では、人間のミスは前提としていても、人間の悪意は前提としていない。一方、セキュリティに力を入れているイベント関連分野等では、災害等に対する対応が充分とはいえない。
 ここで、確認しておかなくてはならないことは、防災という視点でも、危機管理と言う視点でも、事故の原因は特に限定しているわけでは無いということである。今後の社会情勢を考え合わせた時に、この前提をいつまでも踏襲していられる状況ではない。
 機器のトラブルや自然災害をその原因とするセイフティという概念と主に人間の悪意に対処しようとするセキュリティの双方を含む概念としてシュアティと言う概念がある。
 これからのリスク管理を考えると、セイフティやセキュリティというどちらかの概念だけでは、組織は守れない。シュアティとう概念によるリスク管理が必要な時代である。
 自分は、どのようなリスクに対処するかという問題を、野球とサッカーという二つのスポーツの守備を通して考えてみる。
 まず野球の守備の特徴は、その守備範囲が限定されていることである。三塁手がライトにあがったボールを追いかけることはない。一部ベースカバーや中継という形で本来のポジションを移動することはあるが、これも限定的である。この守備の考え方は、打球がバターボックスからしか飛んでこない野球というスポーツでは、合理的な体系といえる。安全の世界でも、事故や事件の原因が予測の範囲で、さらにその対応組織も確立されている場合は、組織安全における自分の対応範囲を限定しても問題は少ないし、合理的でもある。
 しかし、この安全対応における立場や守備範囲の固定は、これまでに予測していなかった状況に関しては、対応できない場合がでてくる。
 この時に参考になるのが、サッカーの守備の考え方である。サッカーも11人の仕事の分担は、フォワード、ミッドフィルダー、ディフェンダー、ゴールキーパーとわかれているが、キーパー以外は、状況に応じてその時々の役割分担が変わってくる。サッカーの守備において、最大の目標は点数を入れられないことであり、そのためには、守備の人がいない空間(オープンスペース)を極力少なくするために、11人が必要な場所をカバーしていく。
 今の社会安全に必要なことは、各自が自分の守備範囲を決めてその立場に固執することではなく、組織や社会の目的を達成するために、気づいた問題点を気づいた人が改善する情熱と責任を持つことであり、そのような活動を是とする価値観を社会や組織が持つことである。