セーフティー・はーと

2005年6月の記事一覧

第90号 自然災害と危機管理

安田憲二 <岡山大学>
昨年から今年の初めにかけて,台風や地震などの自然災害が荒れ狂いました。人為的な災害と異なり,自然災害を無くすことはできませんが,災害が生じた後の危機管理の重要性は人為的な災害と同じです。
これは,人命救助の世界だけではなく,廃棄物の処理・処分に関しても同じです。災害の際には大量の廃棄物が生じますし,日本の気候風土からすると,衛生上の問題から迅速にこれら廃棄物を処理する必要があります。

これまで,自然災害に対する廃棄物関連の危機管理としては,地震を想定したものが多く,私の前職場である神奈川県でも市町村の間で地震災害に対応した廃棄物のマニュアルが作成されていました。10年前の1月17日に発生した阪神・淡路大震災において廃棄物処理が比較的順調に行われたのは,これらの経験が生かされたことも一助になったのではないでしょうか。

同じ自然災害でも,台風では被害の内容が地震と大きく異なります。台風が原因となって廃棄物処理に深刻な影響を与えたのは,2000年に東海地方をおそった台風14・15・17号による大雨でした。特に名古屋市は日降水量428mmの記録的な豪雨で,通過後に水をかぶった大量の廃棄物が残されました。それまで水害を想定した危機管理は行われていませんでしたので,焼却もままならない廃棄物が長期間放置され,社会問題にもなりました。名古屋市と同じことが,私が現在住んでいる岡山県でも起きました。岡山県は「晴れの国」として良く知られていますが,昨年は観測史上最多の台風が上陸しました。岡山県は瀬戸内海に面しているため,海水面が高く,高潮で簡単に海水が冠水してしまいます。この場合の被害も名古屋市と同様に水をかぶった大量の廃棄物が残されました。残念ながら,このときは名古屋市の経験が十分に生かされなかったようです。今年も台風の上陸は避けられそうにありません。私も微力ながら,水害による危機管理に向けて役に立てればと思っています。