セーフティー・はーと

2004年3月の記事一覧

第64号 再発を防止することと新たな事故を防止すること

三菱総研 野口
プロの目と市民の目

 事故が発生する。事故分析が行う。失敗に学ぶ。この一連の活動は、もはや当然の活動となっている。
しかし、この一連の活動の目的をもう一度整理してみたい。

それは、この一連の活動は、再発を防止することを目的としているのか、新たな事故を防止することまでもスコープに入れているのかということである。
失敗学が求めていることは、基本的には新たな事故の抑止にまでその成果の活かすことである。
今の事故分析は、本当にそこまで真剣に考えているのか?
昨年、大規模な火災事故が続いた。その事故分析から我々は、一体何を学んだのであろうか?
何故、発生した火災が直ぐに鎮火できなかったのか?
この住民の素朴な疑問に安全学は納得できる回答を用意できたのか。
安全のプロであるがゆえに、個別・固有の問題に目を奪われて、市民の視点を忘れてはいなかったのか。
セーフティハートのハートとは、誰の心のことか?
安全工学協会は、もう一度安全の原点に返って、このような問いかけに答えるための活動を開始した。
こう、ご期待!  と私は思っているのですが・・・・・
仲間よ来たれ !

第63号 事故のシナリオ

科学警察研究所  中村順
平成15年に起こった爆発事故は新聞記事を整理してみると72件であった。一昨年の2倍の発生件数である。
本年に入ってからも、樹脂製造プラントにおける爆発事故、病院における酸素ボンベ爆発事故とその発生の収まる気配がない。既に多くの人が最近の事故の多いことについて述べられており、本欄でも取り上げられている。これらの爆発事故の中には、事故の発生のシナリオがよくわからないものがいくつか見られる。ここでは、事故シナリオについて考えてみよう。爆発事故が起こると原因究明が行われる。原因究明がきちんとなされていないと、その安全対策を誤ることになり、同様な事故の再発という最も悪い結果となる。普通には、この事故はどういう順序で爆発したのか事故のシナリオをまず考えることになる。全体的には、ガス爆発、粉じん爆発、蒸気爆発、凝縮相の爆発などの中のどの形態の爆発が起こったかを推定する。さらに具体的には、気相の爆発では、爆燃なのか爆ごうが起こったかや、拡散燃焼かあるいは予混合燃焼か、あるいは小爆発で混合されたものが、その後により強く爆発したかなどの問題が考えられる。また凝縮相の爆発では、最初に爆発が起こったのか、あるいは分解や重合から反応が開始してその後に爆発したかや爆燃から爆ごうに転移したかなどの問題が考えられる。さらに、それらが複合した大規模な事故の場合は、発生頻度も低く、再現実験や小規模実験からは事故原因の究明が困難な場合が多い。事故に関する多くの資料と過去の異なる形態の爆発事故事例や数値的な検討をあわせて、最も起こり得ると考えられるシナリオを描くことが求められている。