セーフティー・はーと

2003年5月の記事一覧

第44号

<野田市   平田 勇夫>
最近、ドミニク・ラピエ-ル/ハビエル・モロ共著「ボーパール 午前零時五分」(上巻、下巻:長谷泰訳、川出書房新社)を読んだ。
この本は、1984年12月2日深夜から3日にかけてインド・ボーパールで発生したメチルイソシアネート(MIC)の漏洩事故を主題にしたノンフィクションである。出版後4週間して、フランス・ノンフィクション新刊部門のトップになり、そして、フランスでは16万部を売り(スペイン15万部、イタリア14万部)、報道出版賞を受賞したということである。
 この事故の直接原因は「MIC配管を水洗していた水が、錆などとともにMICの貯槽のひとつに流れ込み、発熱分解反応を起こした」と記述している。そして、根本原因に繋がるそのときの状況が説明されており、整理するとつぎのとおりである。

1.工場の生産停止から1か月以上経っていたにもかかわらず、3基ある貯蔵タンクうち2基には合計63トンのMICが貯蔵されていた。本来は、工場停止の段階でMICを処理し、タンクは除害の処置を済まして置くべきであった。

2. 貯蔵タンクは、0℃付近に冷却して管理することになっていたが、冷却設備は1ヶ月以上も運転されていなかった。その結果、MICは大気温度(約20℃)になっていた。

3. 除害塔とフレアは前の週から保守工事のために解体されており、運転できる状態になかった。

4. 貯槽タンク内温度の警報装置は電源が切られ、機能しない状態になっていた。

5. タンク周囲のMIC配管の水洗作業をやるとき、貯槽タンクとの縁切りは、バルブを閉じただけであった。本来、仕切り板の挿入などを行い完全に縁切りをすべきであった。

6. 設備の維持管理状態が適切でなかった。

7. 多くの住民が居住する地区のすぐ近くにMICを取り扱う工場を設立した。

これらは、運転管理、設備管理および工事管理に問題があったことを示している。また、著者は、この会社の組織・安全文化面の問題点についても繰り返し記述している。
 多数の地域住民が死亡した保安史上最大級のこの災害が発生して約20年になるが、「事故の教訓」を再認識した。また、ジャーナリズムの視点から描かれたインド市街地周辺の社会状況はリアリテイーに富み大変おもしろかった。