セーフティー・はーと
2002年12月の記事一覧
第34号 アリとキリギリス
坂 清次 (株)三菱総合研究所 客員研究員
イソップ物語は、みなさんよくご存知の寓話集です。ここのところ、グリム童話などと一緒に見直され、ブームの気配すらあります。驚くことですが、海外では私たちが知っているのと異なった解釈がなされています。
イソップ物語は、みなさんよくご存知の寓話集です。ここのところ、グリム童話などと一緒に見直され、ブームの気配すらあります。驚くことですが、海外では私たちが知っているのと異なった解釈がなされています。
アリとキリギリスを例に取りましょう。米国の小学1年の教科書に出てくるのは、日本人がなじんだ話と結末が違っているのです。キリギリスは冬になってもアリに食べ物を求めたりせず、食べ物を蓄えなかったことを後悔し、来年は準備しておこうと誓いを立てることになっているのです。(アリが見かねて食べ物を恵んだかどうかは、定かではありませんが。)米国の小学校の国語教科書には、自己責任や自立心を教える話が多く、温かい人間関係や自己犠牲をたたえる話が多い日本とは対照的とのことです(日経紙記事より)。
自主保安が定着しつつある状況下、基本となる自己決定・自己責任の根っこに、ここに見られるような社会風土があるのであろうか。自己責任が、事故責任になってしまっては困りますが、明日の保安を考える上で、ある種の厳しさが必要です。優しさも大切ですが、甘えは禁物です。 ご安全に。
第33号 2002年11月の事故2件
田中 亨 <横浜市在住>
エンジニアリングコントラクターで、30年弱、プロセスプラントを中心とした安全評価、リスク解析の業務に従事しています。安全工学協会とのお付き合いは、第285回編集委員会(1986年9月2日開催)に出席して以来、16年強の期間になります。
エンジニアリングコントラクターで、30年弱、プロセスプラントを中心とした安全評価、リスク解析の業務に従事しています。安全工学協会とのお付き合いは、第285回編集委員会(1986年9月2日開催)に出席して以来、16年強の期間になります。
この間、多くの方々からご指導ご教授いただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。事務局長の井村さんから「セーフティ・はーと」への投稿を要請されたのは、数ヶ月前ですが、業務都合で、今回の投稿が初回となりました。
さて、本稿を執筆しようとしていた矢先の2002年11月下旬、2つの火災事故が続いて発生しました。一つは、23日(土)勤労感謝の日に発生した横浜の油槽所のハイオクガソリンの入った屋外タンク火災です。約6時間後に鎮火しました。TVのニュースでも放映されていましたが高所放水車をはじめとする周辺への放水が功を奏し周辺タンクへの延焼は食い止められました。また、人身への被害はなかったようです。未だ、火災の原因についての報道はありませんので、この点については何も言えません。しかし、延焼防止に成功したことは、消防活動をなさった方々のご努力とともに、先人たちが築いてこられたタンク間離隔距離など消防法の危険物規制も有意であったと思います。近年、法規による規制に関しては、構造規制から機能規制への移行、あるいは自主規制への転換等大きな変化が起こりつつあります。これらの変化に適切に対応するためには、安全工学的見地からの検討判断は不可欠であり、また、それら技術の適正かつ効果的な活用が期待されます。
もう一つの火災は、10月の台風で伊豆大島の海岸に座礁してしまったバハマ船籍の大型自動車運搬船(56800トン)で、11月26日午前5時30分頃、出火したものです。座礁後、船内に残っていた重油の抜き取り作業が行われていましたが、季節はずれの台風25号による高波でこの作業は11月20日に中断されていました。現時点では、出火原因は明らかではありませんが、新聞報道では、台風の高波や強風が船体を揺すり破損部分で生じた摩擦熱、あるいは船の非常用電源のショート、さらには20日以前の作業に伴う失火などが出火原因として考えられているとの事です。報道写真では、もうもうと上がる黒煙が写されています。現場近くの住民は避難を余儀なくされ、高波により二つに折れてしまった船体からは残っていた重油が流れ出し、周辺海域の汚染が懸念されています。作業に伴う失火が火災原因であれば、これは作業の管理上の問題ですが、季節はずれの台風の発生とその接近を考慮し、台風の発生以前に火災発生防止対策を行うか否かの決定は、経営上の判断になると思われます。一般の産業施設では、高度な経営判断のために種々の状況を前提にリスクマネジメントが行われていますが、事故災害に係わるリスクマネジメントには安全工学の範疇に分類できる各種手法が使われます。有効な解析評価手法を使うリスクマネジメントの普及を望まれます。
たまたま、「セーフティ・はーと」の原稿を考えているときに、二つの事故が発生しました。一般の方々が安全工学に接する機会が少ないと思われますので、少々、無理やり安全工学に結びつけたところがありますが、新聞やTVで報道される社会現象と安全工学のかかわり合いを書いてみました。