歴代会長挨拶

氏名 新井 充(あらい みつる)
在任期間 2016年5月~2018年5月
会長挨拶 このたび,安全工学会の会長に就任させていただくことになりましたので,ご挨拶をさせていただきます.
本学会は,来年,2017 年には,その前身である安全工学研究会の発足から60 週年を迎えることになります.
この長い歴史の中で,歴代の会長は,我国の産業安全に大きく貢献されるとともに,安全工学協会および安全工学会の発展に尽力され,同時に多くの功績を残されてきました.このような歴代の会長,そしてその会長を支えてこられた諸先輩方が今日まで築いてこられた伝統ある学会の舵取りを行わせていただくのには甚だ力不足ではございますが,藤原・鈴木両副会長をはじめとする幹部の皆様の力をお借りして,何とか全うしてゆく所存でございますので,何卒よろしくお願い致します.
さて,本会の定款には,その目的が以下のように書かれています.
「主として産業に係わる安全の諸問題を広く工学的に調査・研究し,各種災害の防止のための知識・技術の向上及び普及を図り,もって産業及び学術の発展並びに社会の安全・安心の獲得に貢献することを目的とする.」
伊藤前会長は,これを踏まえて本会の実行可能な課題として,1)大学等と産業界との連携強化,2)安全教育への取組の始動,3)安全工学関連組織の連携,4)国際交流と人材育成,5)学会誌の充実,を挙げられ,着実に実施されました.私は,これらの課題の深化を進めていきたいと考えています.より具体的には,1)大学等と産業界との連携では,特に「研究発表会」を単なる研究発表の場としてだけでなく,産学の意見交換,情報交換の場として活用するための仕組みづくり,2)安全教育への取組では,安全学の体系化と連動した,モデルカリキュラムの創生,3)安全工学関連組織の連携では,本年6 月に発足した安全工学グループ(代表:伊藤前会長,所属組織:安全工学会,総合安全工学研究所,災害情報センター,保安力向上センター)を核に,連携の緊密化および情報交換の活発化と,グループの拡張,4)国際協力と人材育成では,安全工学会が主導的立場で立ち上げた,APSS(アジア太平洋安全工学シンポジウム)の再構築,保安力向上センターとフランスの安全文化研究所との交流を軸とした人材交流の推進,5)学会誌の充実では,将来的な論文誌の別冊化および英文化を踏まえた,学会誌の見直し等を課題としてゆきます.
特に,これらの課題の中で,「学」側からの会長として期待されているのは,教育であろうと思われます.安全教育については,上記課題に上げた「体系化との連動」という大上段に構えたアプローチに加えて,安全を常にリスクの受容限界でとらえる考え方,安全と安心の関係性等について,これらが共通認識とされるようなボトムアップを図ることも重要と認識しています.
さらに,産業災害,自然災害に際し,安全工学会としての役割を明確にし,積極的に発信してゆくシステムの整備も進めてゆきたいと考えております.
さて,昨年来,憲法解釈の変更,安全保障法制改定法案の参議院強行採決,改憲勢力の台頭と,急速に世の中がきな臭くなってきた印象を受けます.産業安全とは全く異なる分野とはいえ,我々の存在基盤である「国」の安全を無視して産業安全を語ることに意味があるのか,教育の問題も絡めて,少し議論を始めたほうが良いのかもしれません.