歴代会長挨拶

氏名 山本 一元(やまもと かずもと)
在任期間 2006年5月~2008年5月
会長挨拶 このたび,安全工学会の会長に就任させていただくことになりました.前任の田村会長のもとで,2年間副会長を務め,諸先輩各位の長期にわたる地道なご努力と,これを引継いで多様化,複雑化する安全の課題に真摯に取り組まれている皆様方の活動を垣間見て,強い感動を憶えた次第であります.
また,政治,社会はもちろん,産業構造も国際化が一段と進む中で,急激な改革を迫られ,安全工学会の将来のあるべき姿についても,過去数年にわたり諸先輩や幹部の皆様によってこの事態を対処すべく,真剣な論議が尽くされております.
田村前会長はじめ,幹部の方達のご尽力により新しい方向を示されたことは,まさに時宜を得たものといえます.
昨年,「安全工学協会」は特定非営利活動法人「安全工学会」に衣替えして,新しく社会に認知された組織としてスタートを切ることになりました.
これにより,受託事業の拡大などの自由も獲得しましたが,一方で社会に対して,安全工学会が果たさなければならない使命も問われることになりますので,責任の重さを受け止めて会の運営にあたる必要を痛感しております.
また,継続的に検討されている,安全に関する知識を共通化しようとする「体系化」の検討も,定常的な活動に加えて安全工学会が担う課題として鋭意推進されて参りました.
日本学術会議や,他の学会や協会と連携して,安全知識を共有化することや,これを広く普及しようとする困難な試みも始められております.
このように,前会長時代に,安全工学会の進むべき道筋は明確に示され,力を必要とする仕事は処理していただいております.
この路線をしっかり踏襲して,小川,服部両副会長はじめ,幹部の皆様のご支援を得て,努めていく所存でございます.
さて,一概に安全といっても,定義さえ明確ではありません.産業界や社会も,リスクへの対応を進めてきましたが,技術革新のスピードが速すぎて,安全技術がこれについていけない側面もあります.
多岐にわたり技術革新が進むにつれて,安全に対する社会や行政からの要請も増大すると思われます.安全工学の研究は,リスクを把握し,その影響の度合いを明らかにする,いわゆるリスクアセスメントが第1 の目的と言えます.
人や社会に対するリスク評価を科学的に検討し,原理・原則を明らかにして初めて,防止策も提案できます.困難な仕事ですが,今後とも引続き鋭意推進していく必要があります.
第2に,研究の成果をベースにして,リスクを許容できるレベル以下に管理する,リスクマネジメントも重要になってまいります.科学的知見に加えて費用対効果も加味しなくてはなりません.
社会のニーズを汲み取り,技術の進歩との調和をはかり基準を提示するわけですから,正しい情報を開示して産官学が共同してコンセンサスを求めていく必要があります.
第3に,科学技術に裏打ちされた普遍性のある安全の体系化ができれば,新たな法律の制定を促すこともできるのではないかと思います.
第4に,こうした活動を通じて安全に関する人材の育成も当会の重要な役割です.個人をエンカレッジし,権威付けるためにも資格などをオーソライズすることも検討しても良いのではないかと思います.企業も最近,CSR経営が提唱され,環境・安全を経営の中枢に据えるようになりました.
価値観や倫理観までも,時代とともに移り変わるものですが,人々の「いのち」を守り,「暮らし」を豊かにする努力は不変のものであって欲しいものです.
20世紀の科学技術の進歩は,経済的豊かさを実現しましたが,一方で環境破壊を招来し安全が脅かされる側面がありました.
持続可能な社会を実現するには,「安全で豊かな社会」を目指さなくてはなりません.安全工学会の使命として長い道程ですが,皆さんとともに,一歩一歩着実に進んで参りたいと思っています.