歴代会長挨拶

氏名 三宅 淳巳(みやけ あつみ)
在任期間 2020年5月~2022年5月
会長挨拶  このたび第16回総会ならびに第297回理事会の議を経て,2020~2021年度会長を拝命いたしました.大変な時期に重責を仰せつかり,正に身の引き締まる思いですが,学会ならびに会員の皆様,そして社会の発展に貢献できるよう微力ながら力を尽くして参りたいと存じます.
 さて,緊急事態宣言は解除されたものの新型コロナウイルスはいまだ収束の様子は見えず,世界中の方々が楽しみにしていた東京オリンピック/パラリンピックの延期を始め,国内はもとより国際的な社会活動にも大きな影響を及ぼし,世界経済の行方は悲観的でさえもあります.安全工学会に於きましても,5月に開催予定であった通常総会を中止し,メール回議をお願いするに至りました.現在は,先行き不透明な中,本年12月3日~4日に開催を予定している安全工学研究発表会を始めとする各種のイベントについて,安全を確保した運営を行うべくweb 形式での開催を含め準備を進めている状況です.
 新型感染症はその全貌が未だ明らかになっておらず,ワクチンの開発にも相応の時間がかかることから,現時点で最善の方法を確定することはできません.しかしながら実社会においては,全貌が不明なまま社会的/技術的対応を取らざるを得ず,政策決定や技術的対策を実施してきた事例は過去にもあり,特に安全工学分野では,多くのリスク要因のバランスの中で最適解を見出してきた歴史と実績があります.これらは正に「リスクと共生する社会」の実践であり,当学会はこれまでの実績を応用展開することで,適切な意思決定に繋げる方法論を提示することが可能であると思います.
 リスク概念はこれらの手続きにおいて,科学的合理性に基づく客観的な評価を行い,透明性のある議論のプロセスを経て納得感のある結論を導き,組織や社会の意思決定を行う際の有力な方法論でありますが,災害時には時々刻々と変化する状況に応じ,設定課題に求められる時間スケールに整合する動的なリスクアセスメントが不可欠です.
 一方,当学会の活動対象は感染症だけではありません.新型感染症の要因とされる環境破壊とグローバル化,高い可能性で発生が懸念される激甚災害,ならびにそれらが産業システムや社会生活に及ぼす影響,政治や経済の停滞,人々の生活スタイルや価値観,心理的影響等々,これらの多様なリスク要因とそれらの複合災害を想定し,抽出した各シナリオに対する的確な対応を準備しておかねばなりません.
 今日,国民が求めているのは各々の社会生活における安全・安心・健全・快適であると感じており,当学会に携わる者として科学技術に対する国民の不信感が増加することは最も懸念するところであります.社会が求める「安心」が【安全性,信頼性,受容性】による関数であるとすれば,安心は安全であることが大前提であり,安全情報を発信する組織としての学会は社会の信頼を得ているか,また,その情報が社会受容を獲得できるか,という検討により,安心獲得のスキームについて検証する必要があると思います.
 ウィズコロナがリスク共生とすると,ポストコロナはイノベーションの時期とすべきと思います.New Normal(新しい日常)の在り方が問われる今,学会もその役割と存在意義,そしてこれまでの仕組みややり方を改めて考えることで社会の変化を乗り越える新たな価値を創出する機会ととらえています.コロナ禍を機に一気に導入が進む在宅勤務や教育機関でのリモート授業の推進同様,New Normalに対応した学会の在り方も検討が必要であり,スマートな学会への転換とそのための環境整備を進めたいと考えており,さらに,リスク共生社会の構築と推進を先導する学術集団として社会に貢献するとともに,学会のプレゼンス向上にも努めたいと存じます.
 国難というべき課題を抱える中で今期のスタートにあたり,今後起こりくる市民の意識変革と社会の大変動に向けて,今すぐに着手すべきこと,数か月単位でなすべきこと,数年間で対応すべきこと等を早急に考えるべく,理事,監事各位には依頼事項を発出しております.社会の大きな転機となる今期を今後の学会繁栄の礎とする時期ととらえ,理事会,事務局,会員の皆様が一丸となって学会の新たなスタイルについて建設的な議論ができるよう皆様の格別のご支援をお願い申し上げる次第です.どうぞよろしくお願いいたします.