歴代会長挨拶

氏名 田村 昌三(たむら まさみつ)
在任期間 2004年6月~2006年5月
会長挨拶 このたび,安全工学協会の会長に就任させていただくことになりました.これまで諸先輩が築いてこられた安全工学協会のさらなる発展のために,少しでもお役に立てるよう微力ながらも努力致す所存ですのでどうか宜しくお願い申し上げます.
21世紀は安心・安全社会であることが期待されております.
20世紀の科学技術の著しい発展は,衣食住をはじめ,文化,レジャー,スポーツ等われわれの生活を豊かなものにしてくれました.しかし,一方で安全問題や環境問題が発生しました.これらの問題の背景には,人や社会の変化や産業構造の変化があったように思います.
少子化等が進み,安全な環境のなかで育ってきた世代は,危険経験が少なく,危険への感性が低下しているように思います.また,個人の主張が尊重され,価値観が多様化し,倫理観も希薄になっており,組織としての対応が困難になってきています.さらに,ゲーム世代では,最近の社会問題に見られるように,容易にリセットができるということから,深く考えることなく,行為に移すことがしばしば見られます.
かつて,わが国では絶対安全でなければならないという風潮がありました.製造現場では多少問題があっても経験豊かな現場の技術者や作業者が何とか対応して問題が顕在化することを防いでくれていました.しかし,これからはそれを期待することは困難ではないかと思います.これからは絶対安全はない,つねにリスクがあるという意識と緊張感をもち,そのリスクをいかに低減するかということが重要であるように思います.
近年,産業はますます高度化,多様化,複雑化,国際化しており,潜在危険は増大しています.また,仕事は分化し,専門化することにより全体像がわからなくなっていますし,コンピュータ化により中身がわからなくなっています.リストラ,世代交代等により経験豊かなベテランが不足し,異常時への対応が困難になっています.
このようなことを考えると,21世紀の安全の課題は,教育であり,知識の整備,体系化と共有化であり,安全環境の整備にあると思われます.安心・安全社会の構築という社会の大命題に対して安全工学協会として果たすべき役割は極めて大きいといえます.
今期の安全工学協会の活動としては,定常的な活動に加えて,安全工学の体系化,安全工学研究の推進,安全を支える人材の育成,安全知識の普及と共有化を柱とした活動を展開したいと考えております.
いま,安全が世の中の重要なキーワードとなっていますが,安全工学の学問的体系はまだ確立されているようには思われません.今後,安全に関する活動を展開する上でもそのベースとなる学問の体系化は学会としての一つの重要な役割かと思っています.これについては,今期,特別委員会を設置し,日本学術会議安全工学専門委員会とも連携して当たりたいと思っています.そして安全工学協会が主として担う活動分野を明確にしたいと思っております.
安全工学研究の推進については,前期の特別委員会の答申を受けて,情報安全,廃棄物安全,非組織化産業安全の研究会をスタートしたいと思っております.
安全を支える人材の育成については,今期,安全教育プログラム特別委員会を立ち上げ,前期の特別委員会で検討された経営者安全教育プログラム,すでに実施している高度安全技術者教育プログラム,現在作成中の初級安全技術者WEB 教材を活用した教育プログラム等を含め,体系的で,継続的な安全教育のプログラムの作成と資格等を検討したいと思っています.
安全知識の普及と共有化については,前期の特別委員会の答申をもとに,安全情報提供,安全相談の体制について検討するとともに,安全情報センターの設置についても検討したいと思っております.
前期からの関係者のご尽力により新法人安全工学会の設立作業が進められており,今期は新法人安全工学会が設立することにより,社会に認知された組織として活発な活動を行うことが可能となり,また,受託事業等を行うことも容易になります.
今期の具体的な活動については,山本副会長,井上副会長ともよく相談し,理事会,各委員会,会員の皆様のご理解とご協力を得て,進めて参りたいと思っておりますので,どうか宜しくお願い申し上げます.