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2018年7月の記事一覧

★ 安全と安心におけるコミュニケーションの役割(第2回)

有限会社エンカツ社 代表取締役社長 宇於崎裕美
安全工学会 会員
第2回:記者会見で信頼されるには

2018年5月、某大学のアメフト反則プレイ問題がマスコミやネットで大きな話題となりました。選手が対戦相手に反則のタックルをしかけケガを負わせた原因が、監督とコーチの指示によるものかどうかが争点となりました。このとき、実際に反則タックルを行った選手が個人で記者会見を開き、監督やコーチの指示のもとで危険なプレイを行ってしまったことを告白しました。いくら指示があったとはいえ実際に反則をしてしまったことを反省し、もうアメフトをやる資格はないと自分自身を厳しく断罪する様子に人々は驚きました。なによりも20歳の青年が、堂々と名前や顔を出し、弁護士の付き添いはありましたが、たった一人でマスコミの前に出てきたことに多くの人が感銘を受けました。「なんて正直で誠実な青年なんだろう!」「彼は真実を語っている」とマスコミ各社は大々的に報道しました。けが人を出した対戦相手の監督さえも「勇気を出して真実を語ってくれたことには敬意を表したい」とコメントしました。

〇わかりやすさが信頼感につながる
前出の青年の言葉に説得力があった理由として挙げられるのは「わかりやすいさ」です。試合当時の監督やコーチと交わした会話の詳細や指示の有無について、明確に説明しています。また、質疑応答で記者から厳しい質問をされても「自分で判断できなかった弱さ」を明確に認め、「アメフトを続けていく権利はないと思っている。この先、やるつもりもない」と覚悟を語り、さらに「今のところ、何をしていくべきなのかも分からない」と迷いも素直に表現していました。
彼の会見を見ていて気づくのは、余計なことをいっさい言っていないということです。メッセージが明確で、質疑応答でも記者の質問にダイレクトに短く答えています。都合の悪いことを隠そうとしているような様子はありません。つまり作為的なところが何も見当たらないのです。このようなわかりやすさは、即、信頼感につながります。

〇うそをつく人は余計なことを話す
「うそをつく人は余計なことを話す傾向がある」そうです。うそをつく人は沈黙するのが怖いので、余計なことをしゃべりがち。質問したときにイエス、ノーを言う前にいくつも言葉を並べるのはかなり怪しい。うそや浮気の見抜き方でよく紹介されることです。
記者会見でも、記者から質問されたときに、言い訳から話し始めるのはとても危険なことです。うそをつこうとしているのかと勘違いされます。

〇都合の悪いことこそはっきり言おう
企業不祥事に関する記者会見でよく見られる失敗例は、自分たちの都合の悪いことをなかなかはっきり言わないことです。「わからない」「できない」「やっていない」ことを明確に言えなくて、なんだかんだと言葉をならべて、自分たちの苦しい立場をわかってもらおうとぐずぐずする人は多いものです。「ご理解ください」「よろしくお願いします」と妙に卑屈(?)になってしまう場面もよく目にします。こんなことでは、かえって不信感を招きます。
記者会見に限らず事態の説明をしなくてはならないとき、都合の悪いことほどはっきり伝えたほうがよい場合は多いものです。「不明」「未定」でも、現状を正しく表現しているのならば伝える価値があります。正しく伝えることこそ、相手に対して誠実です。言いにくいことでも、自分から言い出す勇気を持ちたいものです。

次回は、不祥事発生時に皆が知りたい4つのことについてご紹介します。