セーフティー・はーと

2004年6月の記事一覧

第70号 PSAM7に参加して

福田 隆文 <横浜国大>
確率論を基にした安全評価と管理に関する国際会議PSAM(Probabilistic Safety Assessment and Management)が、今年はベルリンで6月14日から18日までに開催され、私も参加してまいりました。500余件に発表があり、盛況でした。

 発表は、広範な分野におよんでいました。OECDにおける安全管理システムの構築と各国への導入など大局的なマネジメントシステム構築に関するものもありました。私たちの日々の研究は、組織・職場の任務に従っていますから、それほど自由にテーマが選べるわけではありませんが、技術者もマネジメントシステム(何もこの例のような国レベルのことでなくて、工場レベルでもマネジメントはありますし、そのような発表も多くありました。)の問題にも関心をもっていたいと思います。年末の安全工学研究発表会で、オーガナイズドセッションで関連するマネジメントやシステムつくりの話が聞けるのが、ここ数年の企画ですが、これが一層発展しながら続くとよいと思います。また、安全工学誌も、安全関連の広い分野の情報をもたらしてくれており、助かります。
 また、女性の参加者・発表者が多くいました。どの分野の発表会場でも、1割から2割は女性がいました。安全工学協会にどれくらいの女性会員がいらっしゃるのか私は知りませんが、安全工学研究発表会においても、もっと女性の発表が多くなってほしいと思います。生命・環境・新物質の問題などを中心に、広く安全の問題を考えるとき女性の視点からみた安全の考え方はますます重要になってくると思います。
 当然ですが、発表・討論は英語で行われます。多くの日本人は苦労していると思います。今回、感じたのはネイティブの方に二タイプあるということでした。それは、特に討論であらわれるのですが、非ネイティブの人でもわかるようにしゃべってくれている人とそうでない人がいるということです。ネイティブの人がネイティブの方からの質問を受けたときでも、わかりやすく、比較的ゆっくりと回答してくれる場合には、我々も何を議論しているかわかりました。もち論、私たちの努力も必要ですが、国際会議は議論の場であることを考えると、会場の誰もが議論に加われるように配慮した討論を望みたいと思います。このことは、リスクコミュニケーションにおいて専門家でない人に技術的な内容を伝えるときにも必要な配慮だと感じました。

第69号

大島榮次  <東京工業大学名誉教授>
事故統計によると、平成12年以降石油コンビナート事業所の事故件数は微増の傾向が見られます。
 事故は連鎖的に起こると良く言われますが、詳細に一つひとつの事例について調べて見ても、なかなか事故を誘発するような共通の条件は見付けることが出来ません。 平成15年は石油コンビナートで22件の事故が発生しておりますが、日本全体の事業所数で割算をすると、4%弱になり、言い換えれば各事業所にとっては25年に1回の頻度ということになります。この数字は、外国に比べると非常に小さい値ですが、プラントとしては限りなくゼロに近づける努力が求められており、最近の安全管理の課題は、一般的な統計値を減らすといった漠然とした目標ではなく、25年に1回しか起きない個別の問題を先取りしなければならないという厳しい要求に応えることなのです。 我が国の石油産業のプラントは昭和40年代からのものも多く、老朽化が懸念されておりますが、最近の事故事例を見ると、長年の経年劣化と言うよりは、ある「きっかけ」が起点となって加速的に劣化が進行した例が多く、その「きっかけ」が何処で何時起きるかが把握されていないと言えます。 我々の体の何処かで始まる癌細胞を見付けるのと同じような技術がプラントの健康管理にも必要なようです。