歴代会長挨拶

氏名 上原 陽一(うえはら よういち)
在任期間 1996年6月~1998年6月
会長挨拶 安全工学協会会長就任に当たり,一言ご挨拶させていただきます.
本協会が発足したころは,「安全工学」という言葉自体が世間には珍しく,檬浜国立大学工学部安全工学科の初期の卒業生は,就職に際して桓当者から安全工学とはどういうものかと質間され,その説明に脂汗を流したと間いています.いまや「安全工学」を知らないほうがむしろ時代遅れというように変わって参りました.協会発足当時に比べて,社会全般に安全を考えることが染み込んだ感じがします.これも創始者の北川徹三教授をはじめとする,安全工学協会の歴代の役員の方々および会員の皆様の絶えざるご努力の成果です.世の中安全の風が吹いて協会も一見順調のように見えます.
しかしながら,現状をよく見るとき,必ずしも私は楽観的な気持にはなれません.といいますのは日本人のほとんどが,「安全」は空気と同じように“ただ”で,しかもまったくなにもしなくてもそれが保てると思っているからです.
現代社会は工業技術社会です.この社会は本質的に大きな危険を内在しています.いうなれば,危険が当たり前で,安全なのがむしろ異常なのです.それがどうして一見安全な杜会に見えるかというと,担当者がそれこそ必死にその危険を押さえ込んでいるからです.なにもしないで安全などあり得ません.
シンクロナイズド・スイミングはにこやかな笑顔と優美な動きでわれわれを惹きつけますが,水面下では懸命に水を掻いているわけです.それは表面には見えません.現代社会の安全もこれとまったく同じです.一生懸命に安全の仕事をして,それではじめて安全が保たれるのだということを認識せねばなりません.この考え方が安全工学の基本になります.安全工学協会は,この認識に基づいて行動される会員の皆様を技術的に支援することを使命とする組織です.
本協会は40年近くにわたり,このように安全工学の普及,発展につとめてきましたが,これをさらに発展させることが,新理事会に課せられた業務です.なすべきことは山積していますが,当面つぎの三つの課題について活動したいと考えます.
まず最初は,健全な財政の維持であります.もしこれが不健全全になりますと,十分な活動ができないばかりか,下手すると協会の解散という憂き目を見るかもしれません.健全財政の維持は協会にとって絶対必要な要件です.協会は数年前まで赤字体質に悩んでいましたが,秋田前会長および橋口前副会長の並々ならぬご努力で,それが一応解決され,多少の繰り越しを次年度に持ち越すことができるようになりました.お二人のご尽力に厚く感謝申し上げる次第です。
第二は,会員へのサービスの充実であります.会員に対しては,現在年6回の会誌の発行,安全工学セミナーの実施,講習会の開催など,かなり努力しているつもりですが,内容に関していろいろご意見もおありだと思います.これらをきちんとお間きして,新理事会で対応するとともに,前会長の方針を引き継ぎ,開かれた協会として会員のご期待に沿えるようにしたいと考えます.
また,来年,1997年は協会の40周年に当たりますので,記念行事などを行いたいと考えます.これに関連して,協会の法人化も長い間の願望ですので,実現に向けて努力を積み重ねます.
第三は,協会内部の規程類の整備であります.協会はもともと,安全工学に関心のある産官学の有志が手弁当で集まり,種々の活動を行ってきました.このため協会運営に必要ないろいろな業務や行事に関することが,それまでの慣例に従って行われる傾向にありました.組織が小さいうちはそれでよかったのですが,いまになると,業務内容が担当理事にもよく理解できないなどの弊害が出てきました.これにつきましても前理事会のたいへんなご努力のおかげで,基本的な規程類の整備が行われました.総会が昨年から開催されるようになったのもそのためです.しかし,まだまだ残されたところがあり,理事会がきちんとした活動を進めるには,これが欠かせません.
以上,当面の本協会の課題について所見を述べましたが,もちろん長期的な展望の必要性も十分理解しています.ただ,いまは脚下を一歩,一歩踏みしめながら前進することが必要なときだと考えます.会員の皆様のご協力なしに課題の達成も協会の発展もできません.よろしくご支援のほどをお願い申し上げます.