歴代会長挨拶

氏名 北川 徹三(きたがわ てつぞう)
在任期間 1978年7月~1984年1月
会長挨拶 昭和32年の安全工学協会草創の頃は,まだ安全知識にまとまった統一が全くなく,安全運動は精神主義に立脚していた時であった.このような時代に,安全工学という新しい学問の重要性を提唱し,災害の発生原因,経過及び対策に関する知識の科学的な体系化を図ろうとすることは,いわば太平洋を横断するに,手製のヨットを漕ぎ出すに等しい,大それた企てではなかったかと息う.
昭和37年に,故磯谷延治会員の熱心な御勧奨により,一大決意の下に専門雑誌として「安全工学」を創刊したときも,これが17年後の今日まで安全工学の機関誌として,堂々と続刊し得るとは,夢にも考え及ばなかったことである.
昭和48年刊行の運びとなった「安全工学便覧」も,準備に9年の歳月を要したとはいえ,わが国はもちろん世界各国にも類を見ない総合的な安全工学のハンドブックとして,安全知識の体系化の目標をある程度まで達成し得たといえよう.そのほか,数次にわたる安全環境間題視察団の海外派遣,斬新な話題による講習会や研究会の開催など,本協会は,常に前人未踏の境地を大きい困難を克服して拓いて来たものである.
現在の安全工学協会の名称に改められる前は,安全工学研究会と称せられ,安全問題に深い関心をもつ約10人の同好の士のささやかな集まりとして始まったものであった.
昭和36年に初代会長として柴田勝太郎氏を迎え,42年に同氏の会長辞任に伴い,二代会長として玉置明善氏を選出して、両前会長の御指導によって,幸いにも本協会は着々と発展の地歩を固め,絶大な社会的信用を博するに至った.
本年7月玉置前会長の辞任の後を受けて,不肖私が三代会長をお引き受けすることになったが,この機会に歴代会長の長年の御尽力に感謝を捧げるとともに,その御業精に対し,恥じない仕事を誠心誠意,献身的な努力を傾けて果たさねばならないち覚悟している次第である.
安全工学の目的は,いうまでもなく,(1)生産設備や原材料製品の損失を防ぎ,(2)従業員の生命と健康を守り,(3)地域社会の住民の健康と平安を守ることにあると思う.これらの考え方は,従来の専門の工学には見られなかったもので,工学に新しい息吹きを与えるものであり,また安全工学は,理学,工学,医学などにわたる総合的な広領域の学として,その特徴を発揮すべきものであろう.
高度の経済成長をすでに経験したわが国の産業界にとっては,将来とも,無災害・無公害の理想の実現への努力に徹すべきであり,安全工学協会の果たすべき役割は,今後ますます大きくなるばかりである.
また,わが国のみならず,東南アジアの諸国においても,近年の工業の急速な伸展に応じて,災害公害の予防問題は,不可欠の緊要事となることは明らかで,安全工学協会の活動の分野は,国際的にも,ますます広がることになるであろう.
会員各位の親密な協力と創意の発揮によって,本協会の活動が社会の安全と平安の確保に貢献することができるように,またそれによって将来協会の発展が期待できるように,祈りたいと思う.