セーフティー・はーと

第127号 安全・安心

飯塚 義明 <有限会社 PHAコンサルティング> 2010年11月8日掲載
「安全・安心」はここ数年いろいろな場面で目にし、耳にもする。
食の安全・安心、社会不安に対する安全・安心願望が代表的である。最近、化学プラントの安全・安心と言うフレーズを見たときに前の二つの使用例に対して何か違和感をもち、ある種の不安感をもった。安全は、加害要因と被害要因との相対的な科学的事実であり、安心は個人又は集団の気持ちのあり方である。安心感をもつのは、被害者となる可能性をもつ側の心情であり、加害者となる可能性がある側がこの安心感を持つことは、油断という非常に危険な状況を潜在させることになる。安全=安心という勘違いの例として、化学プラントと離れるが、35年前、北海道の畑の中を通る国道のドライブしたときのヒヤリハットを思い出す。未舗装ながら直線で周辺に人影も無く、安心して漠然としたおしゃべりしながらハンドルを握っていた。そこに突然、エゾ鹿が数頭森から駆け出してきたので、想定外のこともあり、慌てて急ブレーキを砂利道で踏んでしまった。かなり横滑りしたが、幸い畑に落ちることも無く事なきを得た。まわりに見える事実だけで危険な状況にないと勝手な判断が一つ間違えば、同乗者も巻き込んだ重大事故に発展する可能性があった。あらゆる化学プラントは本質的に重大な保安事故につながる危険な要素が潜在している。地域住民や事業所関係者が安心して過せるように、それぞれのプラント担当者は、見かけの安全状態に油断することなく、堅実なプラントの運転を継続することを切に望むものである。