セーフティー・はーと

第14号 牛肉すり替え事件に思う

平成14年1月29日  西郷 武
「安全工学」Vol.40,No5(2001)の巻頭言に、“安全知識基盤の整備と安全工学の再構築”と題して田村昌三先生の安全への提言が掲載された。セーフティ・はーと4号に横断的な安全工学体系の早期確立を提言した者として誠に同感である。
安全工学協会を軸に産・官・学が一体となって安全の理念と方法論を具体的に展開して安全な社会が定着することを望む。
 1月23日付夕刊各紙が牛肉すり替え事件を一斉に報道した。雪印食品が狂牛病対策して実施された国産牛肉の買い上げ制度を悪用して、輸入牛肉を国産と偽って買い取らせていた。
 これは偶然に発生した事故ではなく、故意に仕掛けた悪質な事件であって内部告発がなければ明るみに出なかった。背筋が寒くなる思いがする。
 企業が利潤を追求するのは当然であるが、ルール違反を承知で組織ぐるみで実行することは一体どういうことなのか。企業活動のモラルが問われる。特に狂牛病の発生で畜産農家や食肉業界が辛酸をなめ、消費者も自己防衛に苦慮している矢先に生じたものであり、この行為は社会に対する挑戦とみなされても仕方がない。フェアーでない企業は消費者の冷静な審判を受け市場から退場させられるのもやむを得ないと思う。
 本事件は安全工学以前の問題であって、社会に共生していくための基礎的なモラルの問題である。ルール遵守を家庭教育、学校教育、企業教育、社会教育などの仮定で醸成させなければならないと思う。