セーフティー・はーと

第130号 親切な案内と産業保安

高木 伸夫 <システム安全研究所> 2011年2月18日掲載
初めて日本に来た外国人が、日本には標識が多いのに驚くということを聞いたことがある。
交通標識はしっかりしているし、街中においても、また、名所・旧跡においても多数の道案内や標識が見受けられる。目的の場所に行くのにも自分で考える必要もそれほどない。これは列車においてもいえることで、行先や停車駅の案内、マナーやお願いに関する車内放送がおせっかいなほど多い。とにかく親切な表示や案内が多く、どこに行くにも、何かを探すにも便利でありイージーである。これらは日本人の几帳面さや親切心によるものといえようが、だがちょっと待てよ、知らず知らずのうちにみんなが同じ方向を向いてしまっているのではないだろうか。案内の通りに行動すればそれほど考える必要もなく確かに無難であるが、こんな道もあったのか、こんなところに神社があったのか、といったような思いもかけない発見の楽しみを奪っていないだろうか。自分でいろいろと考えて行動すると、大きな回り道をしてしまうかもしれないというリスクもあるが貴重な体験が得られるともいえよう。

この標識などの案内と同様のことが日本の産業保安における安全管理にも言えることではないだろうか。産業保安においては仕様規定型の法令を順守するという構造が長く続いてきた。仕様規定型の長所は、そのとおりやれば誰でもが一定の成果が得られるという長所はあるが、それは逆にそれさえやっていればよいという安易な方向に走り、思考の停滞を招き、新しい技術や方策、管理体系を模索する努力を失わせてしまうことになりかねない。法令順守は当然であるが、社会の多様化、技術の多様化が進んでいる時代においては、法の枠組みを超えて、それぞれが今より一歩先の安全目標を設定し、自分で考えて安全確保の方策を策定し実行していくことが必要といるのではないだろうか。