セーフティー・はーと

第19号 失敗知識の活用研究が始動

神奈川県産業技術総合研究所  若倉 正英
「失敗は成功の母」と言われているにもかかわらず、わが国には失敗を恥とする風潮があり、それが事故を隠蔽し類似事故の発生を招いたり、時には積極的技術開発の足かせにすらなってきた.
さらにはH2ロケットや臨界事故など、我が国の科学技術に対する信頼性が揺いでいると自覚した(?)文部科学省は、昨年度から工業技術分野での失敗経験の積極的活用を目指して研究プロジェクトをスタートさせた.対象となる技術分野は建設、機械、材料そして化学物質・プラント分野である。それぞれの分野で多くの失敗事例を収集・解析して、失敗知識を体系化しようとするものである.一方、化学物質・プラントの分野では過酷な開発競争や企業企業秘密の壁があり、同時に化学物質に対する厳しい市民の視線が存在する.市民が化学物質と安心感をもって共存するためには化学物質のリスクに関する社会的コミュニケーション、その基礎となる企業の安全活動やリスクを正しく認識するための社会教育や公的教育の充実が不可欠である.
 失敗知識の活用研究はそれだけで単独で存在するのではなく、安全に関する多様な工学的研究、リスクマネージメントに対する取り組み、生産活動から生じるリスクの社会的受容性のあり方など結びついた、21世紀の安全の中核研究として考えるべきなのではないだろうか.