セーフティー・はーと

第138号 失言

鈴木 和彦 <岡山大学 大学院 自然科学研究科> 2012年1月17日掲載
昨年(2011年)に開催されたある会合での「私の失言」の話である.
安全教育についての会合後の懇親会で,乾杯の音頭と挨拶を 依頼された.そこで私は「安全は大切だが企業が利潤を追求することが重要である.利潤を得てこそ安全に投資することが可能となる.しっか りと安全教育を実施してほしい.」旨の発言をした.「失言」であった.その場がしらけ,懇親会の最中に参加者から「企業にとって安全が第一である.なぜあのような発言をしたのか?」と叱責・非難された.その頃の私の問題意識の中に「企業の国際的競争力の低下」があった.国際競争力を失い,企業の体力が低下すると,安全への投資は減るばかりである.競争力強化を願うことからの発言であった.しかし,「失言」であることには間違いない.「安全第一」の重要性を今一度しっかりと肝に銘じようと反省の日々である.

その会合での「失言」が今でも気になっている.いくつかの企業の方に質問すると,ほとんどは「利潤追求」より「安全」であると言われる.しかし,現実はどうであろう?現場の人員は極限近くまで削減され,課長さんは書類作成・整理に追われてほとんど現場に出ていない.現場の悲鳴が聞こえ,現場の細部に安全管理の目が行き届いていない.平常時の業務はこなせても,非定常な状態に適切に対応できていない.そのことから事故が起こっている.

企業では [安全第一 ⇔ 競争力強化(利潤追求)」の狭間での活動を強いられる.そのような状況の中,安全成績が優秀な企業・事業所が確実に存在する.経営層・上級管理職の強いリーダシップ,現場での使命感・納得感が感じられる.さらに,そこには適切な資源配分が施されている.

昨年の「失言」の後遺症かもしれないが,[安全第一 ⇔ 競争力強化(利潤追求)」の狭間で悩みそうである.その解が「安全文化」かもしれない.

しかし,最近の学生達,若い大学教員・研究者に競争意識がない.その結果,競争力がない.このことも気になる.