セーフティー・はーと
第94号 スペースシャトルの打ち上げ成功
板垣晴彦 <(独)産業安全研究所>
約2年半ぶりにスペースシャトルが打ち上げられた。予定通りであり順調に進んでいるとのこと,再開までの困難を乗り越えた関係者の成功をまずは祝したい。
約2年半ぶりにスペースシャトルが打ち上げられた。予定通りであり順調に進んでいるとのこと,再開までの困難を乗り越えた関係者の成功をまずは祝したい。
前回のコロンビアの爆発事故では,当然さまざまな批判や意見が述べられたが,今回も先日の打ち上げ直前の延期問題が生じ,マスコミ記事は絶え間なかった。
7月13日の延期の原因は,4つある外部燃料タンクの液体水素残量センサーのうちの1つが燃料が枯渇しているのに燃料があるという誤作動を起こしたからだ。打ち上げを延期し,常温での試験・調査を行い,ある程度の絞り込みはできたそうだが,結局,原因が特定されなかった。特定するには測定相手の極低温の液体水素を実際に充填してみる方法が有効だが,タンクの巨大さ,日程の問題から実験が非常に困難であり,実施されなかった。
そして,従来の飛行許可条件を緩和して,試験をしながらのぶっつけ本番とも言える今回の打ち上げに至った。このNASAの姿勢には批判も多く,「安全対策が不十分」とする報告書もある。しかし,NASAは「何重もの安全策を講じてある。ロケットという先端技術ですべて100%安全などあり得ない。そのリスクが許容範囲かどうかが問題だ」と説明する。
シャトルの部品数は250万以上という。開発初期の技術であれば,「想定していなかった要因」による事故がしばしば起こる。「想定」がなけば,リスクを見つけることも評価することもほとんど不可能。だから,少なくともわかっているリスクについては,万全を期す。「同じ失敗は二度と繰り返さない」ということが必須なのだ。
ところが,時を経て,さまざまな失敗・事故を体験すると状況は変わってくる。失敗・事故の発生するのかどうかだけでなく,それによる悪影響はどの程度か?影響する範囲はどこまでか?を考える。そして,その悪影響の程度と範囲をできる限り抑え込もうとする。未然に防ぐことが最大の安全策ではあるのだが,システムが巨大になればなるほど,確実な実行がますます困難になる。
一方,巨額の開発費をつぎ込む国家プロジェクト級の技術開発では,できる限り計画に沿って結果を出していかねばならず,原因の究明にばかりに時間を割くわけにもいかない。
冒険・挑戦とは「危険・未知」に立ち向かうこと,「安全」とは相反するのではないか。コロンビアの時に問題になった耐熱タイルが今回もごく一部らしいがはがれたようだ。今,実機で命をかけて実証実験をしている挑戦者たちに拍手を贈りたい。