セーフティー・はーと

第95号 真夏のできごと

上野信吾 <(株)三菱総合研究所>
関西電力・美浜発電所3号機で二次系配管破損による蒸気漏れ事故が起こったのは,1年前のお盆休みの直前であった。
この事故により,関西電力の協力会社従業員5名の尊い命が失われるとともに,関西電力への信頼,原子力への信頼も大きく揺らぐこととなった。事故から1年を迎えて,関西電力は安全に対する社長の宣言と5つの行動基本方針を掲げ,安全の誓いをホームページに掲載した。この中で事故の直接的な原因の背景に,「安全を最優先するという意識が私たちの中に十分浸透していなかったこと」をあげ,反省を表明している。

最近,JR西日本福知山線の脱線転覆事故,相次ぐ日本航空のトラブル(奇しくもJAL123便事故の20年目の翌日にJAL子会社のエンジン部品落下事故が発生)など,いわゆる名門大企業で国民の不安を煽る安全上の事案が多発している。事故やトラブルの直接的な原因は機械の故障であったり,人的ミスであったり様々であるが,こうしたハザードが顕在化しないように整えられている筈の仕組みやシステムが「機能しなかった」結果,事故やトラブルとして露呈してしまったケースが多い。「機能しなかった」要因には企業組織の問題(例えば,無理な作業要求や作業手順,職場内コミュニケーション,教育・訓練など)が指摘され,その背景には企業組織の安全意識・風土,安全文化の問題があったとされる,安全の専門家の間で「組織事象」と呼ばれる事案であることも少なくない。

安全文化はチェルノブイリ原子力発電所の事故後に国際原子力機関(IAEA)が提示した概念であり,その詳細については他の記事や文書に譲るが,企業経営に密接に係わる組織風土や文化(安全に対するものも含む)の問題は従来直接的にも間接的にも規制を受けるべきものではないと考えられてきた。しかしながら,先にあげた事例の他にも目に余る事故や不正,事件に対して社会が不安を覚えることを見過ごすことはできず,様々な産業分野で国は安全に係わる規制を強化する動きに出ている。

少子高齢化,産業・経済のグローバル化,情報化など社会環境が大きく変わりつつある中,企業も変革を余儀なくされている。変革することは容易ではないが,これまで信じてきた価値の延長を追及するばかりでなく,新たな価値を標榜し,従業員の意識を揃え,組織やシステムを見直すとともに,それらが企業の中身である人や組織に歪が生じることのないようにする,慎重かつ大胆な対応が安全を担保する上で必要なのだと思う。真夏に,蝉が土中の世界の幼虫から空中の成虫へ脱皮するように。