セーフティー・はーと
2003年3月の記事一覧
第40号 韓国邸丘の地下鉄惨事に想う(その1 桜木町駅電車炎上事故)
坂 清次 (株)三菱総合研究所 客員研究員
2月18日に韓国の邸丘で起きた地下鉄放火事故は、死者が200人以上と空前の惨事となった。先行の事故車両の被害より、後から駅に進入してきた対向車両で大半の死者が出るということになり、放火犯に加え、事故車と対向車の運転士、運行司令室と火災警報の設置された設備司令室の地下鉄関係者7名に逮捕状が出ている(3月12日現在)。
2月18日に韓国の邸丘で起きた地下鉄放火事故は、死者が200人以上と空前の惨事となった。先行の事故車両の被害より、後から駅に進入してきた対向車両で大半の死者が出るということになり、放火犯に加え、事故車と対向車の運転士、運行司令室と火災警報の設置された設備司令室の地下鉄関係者7名に逮捕状が出ている(3月12日現在)。
当事者の状況認識の甘さと関係者間の総合的な(場の)認識が共有されていないことが最大要因であり、また事故後の隠蔽工作など問題点が多いが、ここでは経験の浅い地下鉄公社の組織としての危機管理能力について書いてみる。1997年に営業運転を開始しているが、いきなりワンマン運転で遠隔指令という最新の自動化システムでスタートしていることに鍵がありそうである。火災警報機をいつものことだと無視し、運転士に的確に指示も情報も出せていないが、これから次々と事実が明らかにされよう。乗客も非常コックを開けていないようである。
そこで私たちの知っている桜木町事故に触れたい。戦後間もない1951年4月24日13:43に起きた、国電桜木町駅構内での電車火災事故である。工事ミスで垂れ下がった吊架線に、進入してきた電車のパンタグラフが絡んだため放電し木造の車両が炎上したが、窓が3段式で人が出られず、106名が車内で焼死したものである。この事故を契機に、不燃化や非常コックなどの保安対策がとられるようになったものである。現場は安全工学協会からほど近い高架部分である。実はこの3日後に上信電鉄で同様の事故が起きたが、幸い被害は軽かった。
ご安全に
第39号 第18期学術会議安全工学専門委員会報告書
小川輝繁 <横浜国立大学大学院工学研究院>
本年は学術会議の18期と19期の変わり目の年です。そこで、第18期安全工学専門委員会(委員長 菅原進一東京大学大学院教授)の報告書を作成しています。
本年は学術会議の18期と19期の変わり目の年です。そこで、第18期安全工学専門委員会(委員長 菅原進一東京大学大学院教授)の報告書を作成しています。
本セーフティ・ハートでも取り上げられているようにテロ、薬害、遺伝子組み換えによる食糧生産の潜在危険など一般市民が不安を抱いている問題が増えています。そこで、今期のテーマは「安全工学の現状と展望---- 安心社会への安全工学のあり方 ---」とし、①安全工学における安全・安心問題へのアプローチ、②事故調査および責任体制のあり方に関する展望、③社会各分野における安全工学の導入と安全性の評価、④人的ファクターを考慮した安全管理と責任の問題、⑤安全教育の普及方法のあり方と社会倫理の醸成の5項目について提言を行う予定です。私は各論の「化学産業における安全工学と物質安全」の原案を作成しています。ここで、化学産業に係わる安全の課題として、①高機能物質の開発競争激化に対する対応、②自主保安、③ヒューマンエラー対策、④リスクコミュニケーション、⑤テロ、犯罪と危険性物質、⑥遺伝子組み換えによる食料生産の潜在危険、薬害等人が摂取する物質の安全問題の6項目をあげて提言をまとめ、以下の文で締めくくる予定です。「最近の化学産業はファインケミストリーが主流となり、高機能物質の開発競争が熾烈を極めている。そのため、安全確保には化学物質の危険性の迅速かつ適切な把握が重要となっている。化学産業の安全の課題は高機能物質の開発競争激化に対する対応、自主保安に対応するための安全技術の向上と体制の整備、ヒューマンエラー対策、リスクコミュニケーションなどであり、これらの課題を克服するために安全工学が重要な役割を担っている。現在はテロが重大な脅威となっている。爆発性物質、毒物などの危険性物質がテロや犯罪に利用される危険性があるため、危険性物質の管理に関するリスクマネジメントシステムを整備する必要がある。医薬品の安全や食品安全も物質安全の重要な課題である。医薬品では薬害問題、食品安全では残留農薬・動物医薬品による健康影響や遺伝子組み換え食料生産の潜在危険性の問題がある。これらに対して法規制や行政の対応がなされているが、現状では多くの人が不安を抱いている。行政はこの不安を取り除く必要がある。安全工学としては化学物質の安全性や遺伝子組み換えの安全性を確認する評価技術の質を高めることが重要課題である。」